第三百二十八話 散り花(二)
それは自分が役者として使い物にならなくなることを恐れての言葉だったのかもしれないし、同時に小笹の誇りでもあったろう。
だが聖羅は咄嗟に叫んでいた。
「駄目だ、死ぬなんて! ――いいか、絶対死んじゃ駄目だからな。俺が手伝ってやる。だから、死ぬな!」
その言葉に小笹は目を丸くし、だが次の瞬間、ぷぷっと吹き出した。
「霞の援護があれば、間違いなく殺れるな……ありがてぇ、じゃ、おめぇにも悪いが手伝ってもらうとするか」
それから二人は打ち合わせをし、小笹が相手を斬ったあと、聖羅はすべての明かりを消して逃亡を手伝うことになった。部屋の様子、明かりの位置は、いつも行くのですべて頭に入っている。
聖羅はどうしても小笹の腕を信用できず、自分も斬るのを手伝うと言ったのだが、頑として拒む小笹の決心を変えることはできなかった。
帰りしな、小笹は聖羅を見送りながら、
「おい、聖羅。楽しかったぜ――ありがとうよ」
やはりにたりと笑いながら言った。
聖羅は眉をしかめ、
「何言ってるんだ。じゃあ、あさってな」
そして馬に乗ると、皆のところへ帰っていった。
「……旦那を頼んだぜ」
小笹のつぶやきが、届くはずもない。
翌日、仕事が終わると、草路村の警固衆は庄屋屋敷に招かれた。
「まだ明日、仕事が残っているのにどういうことだ?」
疾風は首を傾げたが、権兵衛のにたついた顔を見て、即座に納得せざるを得ぬ。
――佐吉か。
ご明察、佐吉が町から帰ってきていたのだ。
満足そうな権兵衛の脇で、佐吉がてきぱきと采配を振るっている。
確かに妙ちきりんな男だが、人の扱いは知っているようで、家人も言われるように「へいへい」と素直に動いている。
「佐吉って、妙な男だな」
思わずつぶやく疾風の横顔を見て、聖羅も変に同意した。