第三百二十四話 秘密(二)
疾風に問われ、和尚はしぶしぶと話し出した。
「いや、もうそれほどではなくなっておったが……おそらく、高香のことじゃろうと思う。ずっと待っておったからのう」
そして、とにもかくにも二人を部屋に招き入れると座らせ、ため息をついた。
「去年の夏以降、あの祭りの頃は、紫野も楽しそうじゃった。わしはあの子が、もう高香を待つことはやめたんじゃと思うておったのじゃ。しかし、季節のせいかのう……冬の頃はよくため息をついておったよ。一日中、部屋に閉じこもっておることもあったようじゃ」
「そういえば……高香、去年は来なかったな」
ぼそっと言った聖羅の頭を、疾風はこつんとつつき、
「何だ今頃。薄情なやつだな、おまえ」
聖羅は祭りのことで頭が一杯だったのである。
言い訳もできず、舌を出した。
「だがなぜか、最近急に生き生きとしだしてな」
和尚も今度は嬉しそうである。
「三日とあけず、野駆けに行っておるわい」
「おい、疾風」
和尚がちょっと部屋を出ていった隙に、聖羅が疾風の膝をつつく。
「紫野がどこに行ってるか、なんて気にするなよ。あまり構うな。放っといてやれ」
疾風は思わず知らず、耳まで赤くなった。
「あ……あたりまえだ。詮索する気なんてない。あいつが元気なら、それでいいからな」
(こいつ)
ぎゅっと睨むと、疾風の頬をつねる。
「痛たっ……何するんだ、聖羅!」
そこへ和尚が戻ってきた。
手に何か持っている。巻物のようだ。
「二人とも、面白いものを見せてあげよう」
そう言って巻物を床においてするっと開いたが、まず目に飛びこんで来た毒々しい赤色の洪水に、疾風も聖羅も言葉を失った。
それは大きな炎だった。
しかも非情に禍々しい。
よく見ると、その隙間を裸の人間が見え隠れし、かれらは皆叫びつつ、苦しげに逃げ惑っているのだ。
「ミョウジ、これは……?」
恐ろしそうに聖羅が和尚を見上げた。