第三十二話 白菊の稚児(二)
その日丞蝉は、岩棚から戻り夕餉へと向かう折、廊下で稚児たちと出くわした。立ち止まり、食い入るようにその艶やかな一団を見つめる。
円嶽寺では、月に三度、稚児と交わることを許されていた。丞蝉もいつも下稚児に慰めを得ていたが、本当のところ上稚児を抱いてみたいという思いは強かった。
安物の稚児など面白くもない。一度、生まれのいい上質の肌に触れてみたい。
とは言うものの、実際の上稚児たちは皆鼻高く、つんけんしているように見えた。僧侶など頭の上から見下ろしている風情だ。可愛げなど、ありはしない。
そう思った時、列のしんがりに黒い法衣が見えた。
高香だ。
いつもは高香が稚児集団に加わっているということはない。変だと思いながらその前に目を移した時、丞蝉の心臓は大きく鳴った。
初めて見る稚児だった。
ふっくらとした頬は薄く桃色に染まり、長い睫毛が伏せた目元に恥じらいを止めているかのように見える。
その時何ということか、一瞬稚児はそのきらきらしい眸を上げて、丞蝉を見たのである。
目と目が合い、丞蝉は完全に我を失って、行列が去った後もただ痴呆のようにその場に突っ立っていた。
そのまま、心ここにあらずで夕餉を済ませた丞蝉だったが、いかんせん胸の騒ぎは治まらず廊下をうろつくこと一刻、就寝前にどうにか高香を捕まえた。
が、事情を聞いて、一気に落胆せざるを得なかったのだ。
高香は粛々(しゅくしゅく)たる様子で言った。
「あの方は、守護大名細田幸元様がご三男、白菊丸様にあらせられます。本日より、円嶽寺においてご修行に入られました」
「ということは……白菊丸殿は、上稚児」
だが同時に、他の僧侶にも手が出せないとわかり、安堵の思いも湧く。
「高香、お前が白菊丸殿のお世話をするのか?」
高香はにっこりと微笑んで見せた。
「はい。法師にそう言い遣っております。私ごときが、もったいないことです」
するといきなり丞蝉が、がばと上半身を倒した。
「高香、頼む。直々に挨拶をさせてくれぬか。一瞬でよい、今日廊下で目を合わせてしまった無礼を詫びたいのだ!」
この男がこうして人に頭を下げて物を頼むなど、あり得ないことだ。まして相手は高香である……。
高香は少々目を丸くしつつも、
「わかりました。しばらくお待ちいただけますか、丞蝉殿」
と言い、部屋に入っていった。
心が燃えるように熱い……。
こんな思いは初めてだった。
俺の中で、一体何がこんなにざわめいているのか。何が変ってしまったのだろう?
そう思いを巡らせるうち、「どうぞお入りください」と、高香の声がした。