表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/360

第三十二話 白菊の稚児(二)

 その日丞蝉は、岩棚から戻り夕餉へと向かう折、廊下で稚児たちと出くわした。立ち止まり、食い入るようにその艶やかな一団を見つめる。


 円嶽寺では、月に三度、稚児と交わることを許されていた。丞蝉もいつも下稚児に慰めを得ていたが、本当のところ上稚児を抱いてみたいという思いは強かった。


 安物の稚児など面白くもない。一度、生まれのいい上質の肌に触れてみたい。


 とは言うものの、実際の上稚児たちは皆鼻高く、つんけんしているように見えた。僧侶など頭の上から見下ろしている風情だ。可愛げなど、ありはしない。

  

 そう思った時、列のしんがりに黒い法衣が見えた。

 高香だ。

 いつもは高香が稚児集団に加わっているということはない。変だと思いながらその前に目を移した時、丞蝉の心臓は大きく鳴った。


 初めて見る稚児だった。

 ふっくらとした頬は薄く桃色に染まり、長い睫毛が伏せた目元に恥じらいを止めているかのように見える。

 その時何ということか、一瞬稚児はそのきらきらしい(ひとみ)を上げて、丞蝉を見たのである。

 目と目が合い、丞蝉は完全に我を失って、行列が去った後もただ痴呆のようにその場に突っ立っていた。

 そのまま、心ここにあらずで夕餉を済ませた丞蝉だったが、いかんせん胸の騒ぎは治まらず廊下をうろつくこと一刻、就寝前にどうにか高香を捕まえた。

 が、事情を聞いて、一気に落胆せざるを得なかったのだ。


 高香は粛々(しゅくしゅく)たる様子で言った。

「あの方は、守護大名細田幸元様がご三男、白菊丸様にあらせられます。本日より、円嶽寺においてご修行に入られました」

「ということは……白菊丸殿は、上稚児」


 だが同時に、他の僧侶にも手が出せないとわかり、安堵の思いも湧く。


「高香、お前が白菊丸殿のお世話をするのか?」

 高香はにっこりと微笑んで見せた。

「はい。法師にそう言い遣っております。私ごときが、もったいないことです」


 するといきなり丞蝉が、がばと上半身を倒した。

「高香、頼む。直々に挨拶をさせてくれぬか。一瞬でよい、今日廊下で目を合わせてしまった無礼を詫びたいのだ!」


 この男がこうして人に頭を下げて物を頼むなど、あり得ないことだ。まして相手は高香である……。

 高香は少々目を丸くしつつも、

「わかりました。しばらくお待ちいただけますか、丞蝉殿」

 と言い、部屋に入っていった。


 心が燃えるように熱い……。

 こんな思いは初めてだった。

 俺の中で、一体何がこんなにざわめいているのか。何が変ってしまったのだろう?


 そう思いを巡らせるうち、「どうぞお入りください」と、高香の声がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ