第三百十七話 氷結
囲炉裏に勢いよく燃える火を枝でつつきながら、疾風はまたぼんやりと考えていた。
昨夜の珠手の顔が目に浮かぶ。
大きなため息をつきながら、疾風は自分がこれほど優柔不断であるとは知らなかった、と思った。
(俺はなぜ所帯を持とうとしない? 珠手はいい娘だ。申し分ない……)
だが心のどこかに歯止めがかかっている。
(なぜだ?)
炎が疾風の額に赤々と照り、鼻梁の影がちらちらと目の下に揺れている。
片手で頬を支え、眉を険しくしてただ座っていても答えが出るはずもなく、疾風は思い切って立ち上がった。
表に出る。
薪を束ねていた井蔵が疾風に気づいて顔を上げた。
「おう、どうした。出かけるのか」
疾風はカゼキリの手綱を引いてくるとひらりと飛び乗り、
「ああ。ちょっと駆けてくる」
言うなり馬の横腹を軽く蹴った。
人もまばらな村を駆け抜け、雪の積もった広原に出る。
疾風はそのままカゼキリを疾走させた。
顔の下半分に風除けの布を巻いているといっても、真冬の風は半端なく冷たい。
それでも疾風は黒髪をなびかせながら、どこへ向かうともなく黙々と馬を駆った。
周りは一面の雪景色である。
その無情なほど凛とした風景とすがすがしい空気は、次第に疾風の心を解放していった。
まるで、煮え切らぬ情けない自分自身が氷結され、自由な心を取り戻すことができたかのように。
頭上高く、白鷺が飛ぶ。
疾風はそれを駆けながら見上げ、(俺は心を決めた)と思った。
そうやって、どこまでも続く灰色の空の下を小半刻ほども駆けるうち、馬も人も体が温まった頃、前方の小道に蓑と笠をつけた人が一人、うずくまっているのが見えた。