第三百十二話 侵入者(一)
あっという間に夏は過ぎ、すでに秋の匂いを含んだ風が草路村を吹き渡るようになっていた。
そんなある日のことである。
村に三人の招かれざる客がやってきた。
おそらくかれらは流れ者の野武士で、長刀を腰に差し、見張り台からは見えない山陰の小道から、女や子供を威嚇しつつ村に入ってきたのである。
たまたまそれを目撃した雪は、ちょっと迷ったあげく、一目散に寺へと走ってこのことを紫野に知らせた。
「俺は一足先に様子を見てくる。雪、もし疾風と聖羅を見つけられたらすぐに伝えてくれないか」
紫野はそう言うと長剣を携えハナカゲに飛び乗り、村を目指した。
寺の山道を下りて間もなく、ある家の前で見知らぬ三人の男たちが、大声で「ここを開けろ、食い物をよこせ」と叫びながら乱暴に家の戸や壁のあちこちを叩いたり蹴ったりしているのが目に入った。
粗末な家を今にも壊してしまいそうな勢いである。
あれは与助の家だ。
年老いた爺婆がいる。
中でさぞ震えているに違いない。
「おまえたち」
三人は手や足を止めて声のした方を振り向いた。
そしてそこに、綺麗な顔をした男とも女ともつかぬ若者が立っているのを見たのだった。
男たちは皆侍のなりはしていたが、袴は擦り切れ、乱れ髪は不潔で、野盗と変わらぬ姿をしている。
紫野は、高飛車に言った。
「おまえたち、この村に何か用か。ただ一夜の宿と食事を望んでいるだけなのか」
それを聞いて、「何を小癪な」と怒りかけた男を制し、口髭をたくわえた男がにたりと笑い、凄んで言った。
「小僧、礼儀を知らんな。人に口を利く時は、まず自分の名を名乗るものだぞ」
だが紫野は、顔色一つ変えず言い放つ。
「俺は霞の紫野。おまえたちにも名乗れる名があれば、聞いておこう」
ついに愚弄されたと思った男たちが一斉にこちらへ走ってきた。
紫野はさっと身構えると、一人を回し蹴りで、一人を右手、一人を左肘で打つ。
男たちはぶざまに転がって呻いた。
「これでまだわからないなら、俺は容赦なくおまえたちを斬る。この村を脅かす者は生かしてはおかない。俺をそこら辺りの若造だと思うな。もう何人も悪党どもを斬っている」






