第三百八話 新しい同居人(二)
村長はひとつ頷くと、
「この子はの、半月前この村の峠で両親を落武者どもに斬り殺されての。それ以来、一言も口を利かん。他に行く当てもないんじゃ。寺の小坊主にでもしてやってくれまいか。そうすればこの子も、両親を弔って生きていけるじゃろうと思うての」
和尚は思案した。
作造は働き者だが、これからどんどん年がいって力仕事が苦になろう。
恵心はいまだ頼りないところがあり、将来寺を完全に任せられるかどうかわからない。
そして紫野は、これからますます警固衆としての仕事が増えていくだろう……。
男の子は三歳か四歳ほどであろうか。まだ幼いが、誠実そうな瞳をしている。
(作造に仕込ませるか)
そう思い、
「承知しました。寺で預かりましょう」
村長に向かってきっぱりと言うと、男の子の頭を撫でた。
「名前は何というのかの」
男の子の代わりにお小夜が答える。
「名前も言わないの。和尚さんがいい名前をつけてあげてください」
(哀れじゃのう、名がないとは……犬猫じゃあるまいし)
そう思いながら作造も男の子を見ていたが、どこか幼き日の紫野を思い起こさせる様子に、しぜん頬は緩んできた。
男の子のくるりとした瞳が作造を見、作造は心の中で、
(ほい、おまえも和尚様に拾われたか。幸せになるんじゃぞ)
と、語りかけていた。
こうして妙心寺に、新たな同居人が加わることになった。
和尚が「珍念」と名づけたこの子供は、和尚が見込んだとおり、なかなか真面目で気骨のある子であることがすぐに判明した。
目の前で両親を斬り殺されたというから、よほどの衝撃を受けたに違いなく、一週間がたってもまだ一言もしゃべることはなかったが、笑顔は時々見せるようになった。
どんな言いつけにも素早く飛んできて一生懸命やり遂げようとする姿勢に、和尚も作造もいじらしさを感じている。
「だが珍念、今おまえに必要なのは、仲間と遊ぶことじゃよ」
そうして寺の用事よりも、紫野や村の子供たちと遊ばせるようにした。
これが功を奏し、ある日珍念は、きゃーっと笑ったかと思うと、水草の陰を指差し、
「カエル、カエル!」
とはしゃいだ声を上げた。