第三百七話 新しい同居人(一)
「いやいや、皆よくやったのう」
感心するミョウジの側で、作造が笑いをこらえている。
「じゃが、わしは何とのう可笑しゅうて……あの三人の真面目な顔」
聖羅のお爺とお婆はすっかり感激して、すぐに幕の方へ行ったようだ。
雪と珠手も久しぶりに手を合わせ、興奮気味である。
「おう」
照れたように井蔵がやってくると、二人はその腕を取ってますますはしゃいだ。
周りに目をやり一瞬声を潜めつつ、珠手が言う。
「ご覧なさいな、井蔵さん。みんな、あんなに騒いでるわ。やっぱり霞組は素敵ね」
「妙心和尚」
さて帰ろうと腰を上げた時、後ろから男が声をかけてきた。
はてと振り返った和尚は、龍神村の村長と村長の娘お小夜、そしてその間に縮こまるようにして立っている男の子を見たのだった。
「おお、これは。仙吉さん。いい祭りでしたな」
村長もにっこりと頷き、
「ほんにのう、ええ祭りじゃった。こんな綺麗な芝居を見せてもらえたのも、ありがたいことじゃ。娘ものう、ほれ、すっかり顔を赤くしちょる」
お小夜は父の腕を軽くつねりながら、
「和尚さん、草路村には綺麗な人が多いのね。……ところで、今年の夏はあの薬売りさんはまだお見えじゃないの?」
「高香のことかな?」
そう言ってから、和尚は(そういえば、今年は遅れておるの)と改めて思わざるを得ない。
梅雨の頃、紫野が屋根から落ちる雨粒を数えるように掌に受けていた姿を思い出した。
と、村長が男の子の頭に手を置きながら、言った。
「実はな、妙心和尚。わしは近々妙心寺に行こうかと考えておった。その――この子を預かってくれまいか」
「その子を……?」
和尚の隣りにいた作造も思わずその男の子を見る。
(寺は子捨て場ではないぞ)
と思いつつ、それでも罪もないであろう幼子の瞳を見ると何も言うことはできず、彼は黙って和尚の顔を見上げた。