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第三百五話 鬼舞(七)

 横に板付いていた聖羅も、その観衆のため息につられるように思わず紫野を見た。

 額が出ているために、その伏せた睫毛の長さまではっきりと見える。

 白い小袖、赤い金襴の女帯。

 肩には赤い小花を散らした薄い空色の打掛が乗っている。

 聖羅はたしかに、(美しい)と感じた。

 だが、ふっと怒ったように視線を向けた紫野は、やっぱり紫野である。

 思わず吹き出しそうになりながら、聖羅は振り付けどおり、色打掛に手を添えた。

 

 まるで、美麗な生き人形のような二人が、色打掛を引き合いながら仲睦まじく舞う姿に、観衆はうっとりと言葉もなく見入っている。

 楽の音はそれを盛り立てるように艶やかに鳴り響き、風にゆらりと揺れる松明の火も、今は夢幻の世界をかもし出していた。


「ともどもに 情けの雨を降らしょうと

 誘う 武者の手 払いつつ

 まずは我にも見せたまえ

 げに恐ろしき 鬼の腕」


 武者が、鬼の腕を持ちかえった褒美に得た姫君を誘い、臥所(ふしど)をともにしようとすると、姫は「まずは鬼の腕を見せてくださりませ」と逃げ回る。そして仕方なしに武者が鬼の腕を見せると、それを掴んだ姫はあっという間に鬼の本性を現し、去っていく……という筋なのである。


 今、紫野はこの場面を淡々とこなしていたが、最初の稽古の時は顔から火が出るほど恥ずかしがった。

「できない」を何度連発したことであろう。

「自分を蝶々だと思え」

 疾風がそう言い、紫野は自分が蝶で、聖羅はそれを追う子供なのだと思うようにした。

 すると、これが実に上手くいったのだった。

「なかなかいい」

 小笹はまたもそうつぶやいて、満足そうに笑む。そして最後には両手を広げ、降参したように言った。

「三人とも、役者になるといい」

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