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第三百四話 鬼舞(六)

 こうして腕を切られた鬼は幕の中に後退し、武者は黒子の持ってきた宝箱にその腕をしまった。

 そのもったいぶったしぐさには、お爺とお婆には悪いと思いつつ、思わず和尚も作造も吹き出したことである。


「いよいよ紫野の番ね」

 雪がひとりごとのように言い、両手を胸の前でぐっと握り締めた。


 実は紫野はできるだけ出番を短くしてくれるように何度も頼んだのだ。

「俺は腕を取り返したらすぐに入る。長く人の前にいたくない」

「何言ってるんだ。三人とも、平等にしなくちゃ」

 そう言う聖羅に何度もねばる。だが結局、押し切られてしまった。

 小笹もなぜか熱心に紫野を指導し、「なかなかいいじゃないか」と、初めて褒めた。

 そして本番では、大切にしている赤い金襴の女帯を貸そうとまで言ったのだ。

「何がいいのかわからない」

 半分べそをかいた紫野だったが、今日こうして当日を迎え、とうとう出番が来てしまった。


「頑張れよ」

 幕の中で疾風は面を取り、息を弾ませ流れる汗を拭きながら紫野にそう言った。

「上手く取り返して来い」

 抵抗したのに前髪を髷のように結われ、飾り紐までつけられている。

 紫野は睫毛を揺らして「うん」と頷いた。

「似合ってるぜ」

「疾風だって、似合ってる」

 怒ったのか照れたのか、紫野はそのままついと出て行ってしまった。

(――本当に、似合い過ぎだろうが)

 疾風は低く笑うと、幕の間からそっと覗いた。


 笛の音が月光を思わせる美しい旋律を奏で始め、それは辺りを不思議な静寂に導いていく。

 黒子が敷いた板の上を、白い小袖の紫野は色内掛けを頭に(かづ)きながら、音もなく歩いていった。


「よくぞ 持ち帰りし鬼の腕

 褒美を取らしょう 望みのまま

 (しろがね) (くがね) 玉ありて

 わけても乙女の麗しき」


 舞台に板付いたままの聖羅の横で、紫野がゆっくりと被き物を下ろし顔を上げると、観衆の中からため息がもれ聞こえた。

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