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第三百三話 鬼舞(五)

 飾り物の剣を遣おうという話も出たのだが、結局二人とも、普段遣いなれている剣を遣うことにしたのだった。

 その方がかえって安全である。

 なぜなら、いつも、かれらは真剣で修行をしてきたから。

 互いの剣の長さや振り切る時間、受けた時の衝撃まで、すべて頭に入っているのだ。

 とはいえ、さすがにこの衣装ではいつものようにはいかぬ。

 これでも控え目であった。


 だが観衆はそれを知らない。

 この真剣同士の激しい応酬に、ある者はびくつき、ある者は唖然として眺めていた。


 二人の足が地を蹴る音、剣と剣がぶつかる音、剣が空を切り風が巻き起こる音、袖の触れ合う衣擦れの音、そして時々起こる二人の小さな気勢。


 赤の鬼と青の武者。


 激しく飛び回る鬼はまるで火の神のようで、聖羅の読みどおり、腰に下げたたくさんの縄が広がり、その動きをさらに大きく荒々しく見せている。

 一方、ひらりひらりと身をかわしつつ、優雅に舞う如く移動する武者は、不意をついて攻撃に転じる。

 それは果たして決められた動きなのか、白鼠(しろねずみ)色の袖露のついた長い直垂の袖が翻り、見ている方はハラハラしどおしである。


 二人は舞台となった縄に囲まれた四角い場所を縦横無尽に走り、飛び、息もつかせぬ。

 大木に向かって走った鬼が、そのまま垂直の木をたたたっと駆け上がり、くるりと宙返りをして武者の頭を越え遠くへ飛んで見せた時、観衆の中からどよめきとともに喝采が起こった。

 だがついに武者が鬼の左腕をはっしと掴み、「えいっ!」という声とともに切り落とすと、そこからまた笛の音、鼓が音を奏でだした。

 武者の掴み挙げた鬼の腕に、観客はまた拍手を送る。

 木製のその腕は、作り物とは思えぬほど生き生きと、炎の色に染まっていた。


「ふむ。なかなかやるな。見事じゃねぇか」

 後ろの木の陰で、井蔵は感心したように唸った。

 ふと斜め横を見ると、そこには佐吉が立っている。

 佐吉は顔を上気させ、うっとりと眺めているのである。

 井蔵は、佐吉が男色の趣味のある好き者であることを権兵衛から聞いて知っていたが、疾風には何も言っていない。

(しかし、あの目はいってぇ、誰を見てるのかねぇ……)

 その時、小笹の掛け声が「イヨーッ」とかかり、鼓がポン! と鳴った。

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