第三十話 運命(さだめ)の少年僧(三)
「高香は望んであのような気を出しているのではなかろう。高香はな……。高香の器は透けておるのだ」
「何っ、透けておるだと?」
天礼は頷いた。
「高香は成人するまでは生きられないだろうと法師がおっしゃっていた。どうやら、不治の病に冒されているらしいのだ。……哀れなことよ。それゆえ、あれの魂は薄い器を通して見えてしまうのであろう」
「しかし、なぜ金なのだ」
天礼は穏やかな瞳で丞蝉を見、
「金の光は御仏が背負う尊い光であると言われる。高香の魂は、もうすでに仏の世界にあるのかも知れぬ、無垢なままで。それとも……天性のものか」
と、顎を撫でた。
丞蝉は唖然とした。
そんな……そんなことがあるか。
尊い光は厳しい修行によって得られるものではないのか。人である以上、身体を鍛え、精神を磨かずしてどうして仏の領域に近付けよう。
小鳥が一羽、二人のすぐ側の木の枝に止まり、チチ……と鳴いた。
天礼は目を細めて小鳥を眺めると、言葉を続けた。
「高香を見ろ。あれは何も望んでなどおらぬ。今日生かされている我が身を慈しみ、いつでも御仏の元に還る覚悟を固めておる。人よりも強くあろうとか、抜きん出ようとか、そんな思いに囚われてはおらぬのだ。幼いのに、見上げた心根であることよ……」
「高香に修行は要らぬと言うのか、あやつは特別だと言うのか?! そんなことは……許せん!」
わなわなと身を震わせ、ついに丞蝉は憤りの声を上げた。
その声に小鳥は飛び去っていき、それを見た天礼はまた儚げに笑った。
「許すも何も、それは高香が神仏に魅入られたということであろう。だがな、丞蝉。私は神仏に魅入られずよかったと思うておるよ。人として、人が与えられ得る限りの徳を積ませてもらえればよい。私はそんなに急いで極楽浄土に行きたいとは思わぬからな」
そうしてふっと丞蝉を見た。
「丞蝉。お前は仏になりたいのか?」
そう問われ、丞蝉は言葉を呑んだ。
たしかに、仏になりたいというのとは違う気がした。
俺は強くなりたいのだ。誰にも勝っていたいのだ。仏に近付くことが、そうなることだと思っていたが……。
その時、刹那にして丞蝉は悟った。
自分には黄金の光を纏うことは無理だと。
俺にあるのは闘争心、慈悲の心とは対極である。
ならば、この心が生む緋色の気の力で、それを凌駕して見せよう。黄金の気など、飾り物にも等しいとわからせてくれよう。
だが慌てずとも高香の寿命は長くない。
そう思う丞蝉の心に、初めて勝利の感が湧いた。
ゆっくりと、丞蝉の顔に笑みが広がってゆく。
天礼は、すっと後ろを向いた。
そして去り際、一言を残した。
「丞蝉よ、法師に知られぬようにしろ」