第二百九十八話 偽りの微笑
毎日毎日続く雨は、人の心を憂鬱にさせる。
軒下を流れ落ちる雨水をぼおっと眺めながら、紫野は日に日に気持ちが落ちていく自分をどうすることもできないでいた。
だが疾風や聖羅と会っている時は、かろうじてごまかせる。
薄っすらと微笑した面をつけ、感情を右から左に流すことを覚えたせいであった。
かくして、以前ほどの意固地さは影を潜め、紫野の周りの棘々した気配は一切消えたことである。
和尚もそれを喜び、紫野がすっかり落ち着きを取り戻したと信じた。
次第に、紫野は高香を待つことをやめ、疾風や聖羅や雪や、村人との付き合いの中におのれを置いていくように思われた。
そう、紫野は、たいていの時は微笑を浮かべていられるようになったのだった。
(誰もが俺を見なければいい。誰もが俺に無関心でいてくれれば)
それには悩みのない振りをすることだ。人前で暗い顔をしないことだ。
(――微笑むのだ)
体の秘密も、こんなにも高香に会いたいと思っている気持ちも、みんなみんな隠すために。
「冷めたやつ」
最近の頻繁な聖羅の皮肉も、いわんや紫野にはむしろありがたいことである。
自分に対する詮索は、すべてその一言で打ち切られるからだ。
「まったくおまえのように冷めていたら、人生楽しめないぜ」
すると疾風が間髪入れずに突っ込んでくる。
「聖羅、おまえは楽しみ過ぎだ。今に危ない目に遭っても知らんぞ」
「紫野なら助けるんだろ。意地悪だな、疾風は」
そう言ってふくれ面をする聖羅を、自分は可笑しそうに笑うだけでよい。
――三人は、うまくいっている。
疾風と聖羅にそう思わせることはおのれの責務であると、紫野は悲壮に思い込んでいたのだった。