第二百九十五話 聖羅の野望(二)
二人が驚いたように聖羅を見ると、聖羅は多少得意げに両目を細め、
「相模の北条、甲斐の武田、駿河の今川、この辺りじゃあ美濃の斎藤新九郎が有名だ。京には足利将軍だろ、それからうんと西に行くと、大内義隆、毛利元就、尼子晴久……」
二人はまた感心し、紫野は思わず声を上げた。
「すごいな、聖羅。そんなにたくさんの武将を知ってるのか」
「まあね」
鼻高々である。
足利将軍はともかく、大名は近江の六角氏、浅井氏ぐらいしか知らない疾風は、年長者の沽券を少しばかり危うくした。
それでも、知らぬものは知らぬ。
(これからは、俺も少しは学ばねば)
そう心に思う疾風だった。
「いつか本物の武将に会ってみたい。そのために、俺はもっともっと腕を磨くんだ」
「聖羅、聖羅はじゃあ、いつか草路村を出ていくのか? 俺と疾風をおいて?」
紫野の言葉に疾風も反応する。
「何? 聖羅、本気か」
すると聖羅はきょとんとした顔つきで、こう答えた。
「え? 俺は村を出ていくつもりなんかないぞ」
そして胸を張ると、
「強くなれば、武将たちが俺に会いに草路村へやってくる――疾風、紫野。俺の夢は、天下に『霞組』の名を轟かせることなんだぜ」
あまりにも大きく無謀な聖羅の夢に、二人ともやや呆れ顔である。
しかしその心意気は、くすぐったくも嬉しいと感ぜられ、疾風は低い笑いでごまかした。
「なるほど、聖羅。おまえの気持ちはよくわかった。要するに、俺と紫野をおまえの天下取りの野望に引き込もうってか」
「違うさ。三人でやろうと言ってるんだ。そのために俺が勉強する」
口を尖らせる聖羅の横で、紫野が笑っている。
「ちぇっ。駄目かなぁ……」
ぱったり倒れた聖羅を見て、疾風も紫野も大笑いした。