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第二百八十話 山賊討伐(六)

 たしかに山賊たちはあれですべてだったらしく、閉じ込められた女たちを助けた後、彼らは嵐のその夜を寺で過ごした。

 女たちが身を寄せ合って眠るのを見届けた藤吉は、

「さあ、俺たちも休もう」

 そう言って隣りの部屋に入るよう指示した。


 その頃では雨風もかなり強くなっていて、とても寝られるものではなかったが、皆疲れていたのかすぐに寝入ったようだった。

 だが紫野だけは寝つけない。 

 先ほどの戦いで、狭い部屋の中では長剣が使えず、山賊を一人も斬ることができなかったことに不服を覚えていたからである。

 真っ先に逃げ出した男を含め、聖羅は弓矢で三人も討ち取り、疾風と藤吉は堂々と後の山賊どもの首を取ったというのに。

「二人とも、怪我はないか」

 そう聞いてきた疾風に嫌味さえ覚えてしまい、紫野は自己嫌悪に陥った。


 しばらく嵐の音を聞きながら我慢して横になっていたが、ついに身を起こすとひとり部屋を出る。

 ついに雷まで鳴り出した空は最高に険しく、雨風にあおられるようにして飛び込んだ部屋で、紫野はほっとため息をつき濡れた髪の雫を払った。

 と、そのとたん、奥から視線を感じ、はっと身構える。

 かっと光る青白い光の中、何かの像のがちらりと見えた。

 大きな雷鳴に目と耳を塞ぎ、改めて部屋を見まわすと、そこにはたくさんの紙やら巻物やらが(うずたか)く積まれ、いくつかの面妖な像も置かれているのであった。


 ゴゴゴ……と天が唸り不気味さがより募るに至り、紫野は、なぜこんな部屋に入ってしまったのだろうという気持ちになる。

 だがその思いとは裏腹に足は自然と部屋の奥へと向かい、指先が蔵書を繰り出した。

 当然部屋は暗黒の闇である。

 それでもなぜか、紫野は今触れている蔵書のざらざらとした感触から手を放せないのであった。


 また明るく部屋が光り、その時紫野は、自分の触れている蔵書の文字をしっかりと見た。

 ――『魔道ノ書』。

 そしてその文字が墨文字ではないことも、瞬時にわかった。


(魔道? 魔道って?)


 ――おおぅ……。


 一瞬、獣の咆哮がしたように思え、紫野は咄嗟に手を引いて入り口の方を見る。

 木々が左右に大きく揺れ、相変わらず雨は叩きつけるように降っていたが、他に気配はなかった。


 ただ無性に胸が騒ぐ。


 はっとして振り返った時、先ほどの蔵書の積まれていた辺りに白い影が見えた。 

 それは真っ直ぐな黒髪を垂れ髪に結った美しい顔立ちの少年で、少年の眸は悲しそうに紫野を見つめた。

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