第二十八話 運命(さだめ)の少年僧(一)
入門して三年目のある日のことである。
ふと仏間を通り過ぎようとした時、そこに幼い稚児が座り、手を合わせているのが目に入った。
そしてその背中を見た丞蝉は、驚きのあまり棒立ちになったのだ。
なんとその幼き背から、黄金の光がゆらゆらと上がっているではないか。
丞蝉は、智立から、人間の身から沸き立つ気の色で最も高貴なのが、黄金の光だと聞かされていた。
気は、その者の知力・体力・精神力によって色や出方を変える。いわば、魂の強さであり、格である。
果たして己の気は何色かと智立に尋ねれば、お前のそれは強い緋色だと言う。
不服そうな丞蝉に、智立は軽く肩を叩き、なまじの者が金の光を纏うことなど不可能だと言った。自分でさえ、紫の色に少し金が混じる程度だと。
それがこの目の前に座っている五歳にも満たない子供が漂わせているというのか。
確かにまだ強い光とは言えるものではない。
だが黄金の光だ。
立ちすくむ丞蝉の気配に気付いたのか、子供がふと振り返った。
その驚くほど青白い顔に、そして子供らしからぬ整いすぎた目鼻立ちに、丞蝉はぞっと粟立った。
そして何よりも恐ろしかったのは、そんな自分をじっと見つめる幼子のあまりにも哀しい……目であった。
その高香という幼子の正体が捨て子で、四歳になったこれからは円嶽寺で共に修行をすることになったという事実を知り、丞蝉には今までとは違った感情が芽生えていた。
これからは皆、この幼子の能力に驚嘆することになろう。
自分はすっかり蚊帳の外に置かれるに違いない。
もっともっと努力をして、高香にだけは追いつかせてはならない。
追う者から追われる者へ。
それは丞蝉が生まれてから一度も感じたことのない、焦燥とも呼ぶべきものであったかも知れぬ。