第二百七十九話 山賊討伐(五)
はじかれたように、四人は真っ暗な廊下を一気に走り抜けた。
そうして角を曲がった時、一つだけ明かりの灯された部屋が見え、声はそこから響いてくるのだった。
女の声だけではない。
男たちの下劣な声も聞こえる。
藤吉は無言で合図をし、二手に分かれた四人がそれぞれ障子に穴をあけ様子を覗い見た。
そこに山賊たちがいた。
酒を飲みつつ、二人の男がわめく女を縄で縛ろうとしているのだ。
すでに女の一人は柱に括り付けられ、男に肌身を責められている。
よく目を凝らすと、奥でも大勢が床で蠢いている影が見えた。
「九人だ……女は四人」
こんな時でもさすがである。藤吉は冷静に数を数えていたのであった。
側にいた疾風は頷き、聖羅に指でそれを伝える。
聖羅も頷き、半弓を取り出すと矢を番え縄を持った男に狙いを定めた。
背中に矢の突き立った男が「うっ!」と言って前倒しに倒れると、山賊どもは一瞬唖然と動きを止めた。
そして次の瞬間飛びこんできた刺客に完全に度肝を抜かれ、武器を持って応戦する余裕もなくただ逃げ惑う。
ところが、である。
紫野を見た山賊の一人は、相手が子供だと見て取るや威嚇の声を放ち、仁王立ちになった。
「このガキが!」
長剣を構えた紫野の目が鋭く相手を射る。が、振り上げた長剣は天井に当たり、動きを止めた。
紫野が「あっ」と声を上げ、男がにやりと笑ったその時、
「ぐあっ……!」
頭の横に矢を受けて、男は引っ繰り返った。
聖羅の矢である。
「聖羅め」
そうこぼしながらも紫野は、長剣で柱に括られた女の縄を切った。
奥では女の悲鳴がけたたましく上がる中、疾風と藤吉が容赦なく山賊の腹を剣で貫き、首を刎ねている。
勝負はあっという間についた。
女の肩に着物を被せながら、疾風が聞く。
「山賊はこれですべてか?」
女は頷きながら、
「でも捕らえられてきた女は、まだどこかに閉じ込められていると思う」
と答えた。