第二百七十八話 山賊討伐(四)
嵐は確実に近くなっているようだった。
同時に、日没も近い。
蓑笠をつけた藤吉を先頭に、霞組の三人は今や山の中腹まで上ってきていた。
もう小雨が降り出している。
さすがに風も強く、木の少ないところでは飛ばされそうになるのを四人は必死でこらえた。
ここまでは山賊の痕跡は何も見つけられず、四人はただ頂上にあるという寺を目指したが、やがて辺りが黒い闇に沈む頃、古寺のさらなる黒い影が突如として四人の目の前に現れた。
皆走り寄り、崩れかけた門前にいったん身を潜める。
崩れかけているとはいえ、なかなか立派な門構えのこの寺は、さぞや由緒のあるものだったに違いない。
「『円……寺』?」
柱にかかっている札は、かろうじて両端がそのように読めた。
真中の文字は、上に『山』の字が見えるが、その下は真っ黒に潰れていて読めない。
四人はそこで耳を澄ませた。
だが本格的に降り出した雨音と風音が激しく、何の音も聞き取れない。
「行くぞ」
藤吉の合図で素早く中に走り込むと、かつては広い境内であったろう荒地を横切り、四人は大きな僧坊に近づいていった。
蓑笠を取り縁の下に隠すと、いよいよ山賊討伐である。
僧坊の廊下も古いためか、軋む音をさせずに歩くのは不可能だった。
だが嵐が隠してくれる。
その点では都合がよい。
それにしても、何と長い廊下であろう。
紫野はふと立ち止まり、ある部屋を覗いてみたくなった。
障子戸も破れたその部屋を覗いてみると、天井や壁が崩れ落ち廃墟同然である。
「どうした、紫野。何か見つけたのか」
疾風が聞き、紫野は「ううん」と首を横に振り――だが心の中に疑問が湧いた。
(なぜこの部屋だけこんなに壊れているんだろう? 誰かが故意に壊したんだろうか)
そんな紫野の横で、聖羅が、
「静かだな。本当にやつら、いるのか?」
と囁いた時である。
アーッという女の悲鳴がした。