第二百七十七話 山賊討伐(三)
かくして一行は、日影村に向かっていた。
なるべく急ぐ必要があると思った彼らは馬を駆っている。
カゼキリの背には、疾風と藤吉が。
ナガレボシの背には、聖羅と風太が。
ハナカゲの背には、紫野と数馬が。
そして、サクラの背には、翔太が乗っている。
霞組の三人以外は、馬に乗るのは警邏に行くときだけだ。
そしてその時の馬には荷車がついている。
カゼキリやナガレボシのような足の速い馬に乗って駆ることなどまったく不慣れであったから、今回は慣れている三人の背にしがみついているしかないのであった。
一番恰幅のいい翔太は、仕方なくひとりサクラにしがみついている。
彼らは午後を少し回った頃峠を越え、笹無村を抜けて日影村に到着した。
すでに村長は殺され、男が言った通り、村は悲惨な状況である。
藤吉が村人に山賊退治の話をすると、誰もが懐疑的に、だが憔悴しきった様子で「お願ぇします」と頭を下げた。
「まずは俺と霞組で山中を偵察する。問題がなければすぐにかかるんだ。翔太、数馬、風太はここで待っていてくれ。もし逃げ出した山賊がいればそいつを頼む」
「わかった。要するに俺たちは、麓を守ればいいんだな?」
翔太が言い、藤吉が頷く。
「頼んだぞ、翔太」
村の老人がよぼよぼと指を震わせ疾風に近づき、声をかけた。
「寺があるんじゃ」
「えっ?」
振り返った疾風の目に、白い髭の見る影もなくやつれた小さな老人が飛び込んできたが、その唇だけは奇妙に赤い。
その赤い唇が動いた。
「山の頂上に、大きな古寺がある。やつらはそこを棲家にしとるんじゃ」
疾風は老人の背に合わせて屈み、
「その寺には誰も住んでいなかったのか」
と聞く。
すると老人は首を横に振った。
「昔は立派なお坊様が大勢いなさった。じゃが、もう何年も前から誰もいない」
疾風は「わかった」と言う代わりに、大きく頷いた。