第二百七十六話 山賊討伐(二)
紫野と聖羅は顔を見合わせ、疾風は即座に答える。
「わかった。とにかく皆疲れただろう。この先に休む場所がある。そこで話を聞かせてくれないか――俺たちがその霞組だ」
そう言って疾風が連れていった先は、自分の家である。
疾風は井蔵にも聞いてもらいたかったに違いない。
日影村の住人たちは出された飯をものも言わずに食べ、それから先ほどの話をもう一度語って聞かせた。
その様子から井蔵は、
「で、おめぇたちはまた日影村に戻る気があるのかね?」
と聞く。
すると女老人は声を上げて泣き出し、亭主と見られる男も肩を落とし涙を拭い出した。
「もう……戻りたくねぇ。だから家族で逃げてきたんじゃ。けど、途中で霞組の噂を聞いた――まだ村に残ってる者もおる、せめてもの罪滅ぼしじゃ」
もう一人の若い男が、がばっと両手をついて井蔵に頭を下げた。
「どうか、この村に住ませてくだせぇ!」
井蔵は、いくらか慌てて言ったことである。
「おいおい、そんなことをわしに言われても……。まあしばらくはこの村にいればいい。この村の住人になるかどうかは後で皆で話し合えばいいからな。それより今はその山賊どもを何とかせねば。ちょうどこの辺りでも、警戒していたところだ」
そして疾風に向かい、
「藤吉に知らせて、すぐにその山へ向かえ」
と言った。
疾風は頷いたが、「だが嵐が来そうだ」と小声で言う。
井蔵は目を光らせ、男に問った。
「山賊がその山にいることは間違ぇねえんだな」
そして男が確実に頷くのを見、井蔵はきっぱりと言ったのだった。
「嵐は好都合だ。山賊どもも山から出まい。一気に潰せる」