第二百七十五話 山賊討伐(一)
嵐が近づいていた。
強い風は落ち葉を吹き上げ、灰色の空を、物悲しげな音とともに自在に吹き回っている。
先の警邏で、また盗賊の噂を耳にしていた警固衆は、当番を組んで毎日近辺の見回りを続けていた。
今日は霞組の三人が北側の山沿いを探っているのであったが、風の運んでくる気配に、疾風は雨のにおいだけではないものを嗅ぎ取っているようであった。
そして聖羅も、先ほどキジが鋭い声で鳴いた辺りに目をつけ、三人は今まさにそこへ向かおうとしているのである。
身を屈め、素早く林の間を走る。
と、見なれない村人の集団がそこにいたのであった。
「盗賊じゃないようだぜ」
聖羅が囁くと、疾風も頷き、
「ああ、女子供も混じってる。だが油断はするな」
見なれぬ集団は、だがいそいそと三人に近寄ってくる。三人がまだ若者であるゆえに、警戒心を持たなかったのだろう。
男の一人が尋ねた。
「おまえら草路村のもんか? 草路村の霞組を知ってるかね?」
聖羅が一歩進み出ようとするのを押しとどめ、疾風が言う。
「霞組に何の用だ? 何か事情でも?」
すると、男はしょぽしょぽと目を瞬かせて後ろの集団を見、頭を垂れた。
集団は八人。
男が二人、女が一人、その女にまとわりついている子供が三人と、爺婆であった。
家族であろうか。
「わしらは日影村ちゅうところから来た。近くの山に棲みついた山賊どもに、村を荒されたんじゃ……男はほとんど殺され、若い女は山に連れていかれた。それでもやつら、毎日食べ物を取りにまだ村に来る。草路村に霞組という強い警固団があると聞いて、わしら、やって来たんじゃ」