第二百六十七話 空木(うつろぎ)(一)
「昨日、高香が泊まることになってさ、おいらのおっ母、がぜん張り切ってやんの。おいら、高香の隣で寝たんだぜ。んでもって、おっ母も高香の隣に寝た」
与助は得意そうに話し、その様子が可笑しかったので皆笑った。
疾風、聖羅、紫野、雪、綾ね、与助、太平、いつもの面々だ。
「今日高香が、薬草摘みに連れて行ってくれるって。みんな行くだろう?」
話題を変えた聖羅に最初に答えたのは、雪だ。
「もちろんよ。あたし、しっかり薬草の知識を教わるように母さんから言われてるの。綾ね、今日は留守番しててくれると、お姉ちゃん助かるな」
「やだ! 疾風兄ちゃんも、紫野兄ちゃんも行くんでしょう? 綾ねも一緒に行きたいもん」
雪は困った顔をした。
「山道は危ないのよ。お姉ちゃん、薬草取るのにおまえのこと構ってあげられないわ」
「やだ、行く!」
先ほど与助の話にも一人だけ笑えないでいた紫野は、その時思わず口を挟んでいた。
「いいよ。俺は行かない。綾ねの面倒は俺が見ているよ。綾ね、俺と一緒に遊んでよう」
すると、綾ねは一転してご機嫌に「うん!」と頷く。
と、疾風が言った。
「紫野、おまえ最近高香と一緒にいないな。なぜだ? 喧嘩でもしたのか?」
「別に」
平然とした表情を保ったまま紫野が答える。
そんな紫野を見て、疾風は複雑を感じざるを得ない。
あの夜、聖羅から紫野の気持ちを聞いた疾風は、自分なりに大いに反省した。
何となく紫野が思いつめていた様子だったのは、では俺が原因だったのか。
「確かに俺は、少し紫野に構いすぎていたかも知れぬ」
疾風はそう言って頭を掻き、聖羅の憮然とした視線をあえて受けたのだった。