第二百五十七話 小滝での出来事(五)
少女の胸のふくらみ。そして……下半身から消えた男のしるし。
驚いて、わあっと叫び高香の手を振り払うと、紫野は後ろを向いたまま再び水の中へ飛び込んだ。
そして急いで体を冷やさなければと思いながら、池の真ん中辺りまで乱暴に泳いでいった。
「どうした、紫野!」
自分が何かしたのかと高香は驚いた。
池の真ん中で紫野が叫ぶ。
「何でもない! 向こうへ行ってくれ!」
そして紫野はもう一度自分の体を見た――どうということはない、元のままの自分の体。
紫野は両手で自分の平らな胸に触れ、男根を掴んだ。
ある。確かにある。
とたんに紫野はほっとして全身から力が抜けたように感じた。
「先に寺へ戻ってるぞ」
怪訝そうにそれだけ言うと、高香は背を向け小道を上がっていく。
(夢? それとも……)
「おい、紫野。大丈夫か。今叫ばなかったか?」
はっと見ると、皆が心配してわらわらと駆け寄ってくるではないか。
紫野はまたも動揺した。
とにかく今、自分を見られたくない――
「何でもない、ちょっとふざけてただけだ」
なぁんだ、と皆が口々に言い、聖羅がやっと自分でも捕まえた魚を嬉しそうに紫野に見せた。
「早く上がれよ。今夜はご馳走だぜ」
結構大きな魚が、矢に貫かれてぴくぴく動いている。
綾ねも横から顔を出し、
「聖羅ってばかっこいいの。弓矢で、あっという間に五匹も捕まえちゃった」
頬を赤くして、満足そうに言った。
太平と与助もそれぞれ一匹ずつ魚を捕らえたようだ。
雪も疾風に手伝ってもらって、一匹。
かれらの遊びは、もう終わりらしかった。