第二百五十二話 ヨモギ摘み
「ヨモギ団子が食べたい」
そう言い出したのは、聖羅だった。
ずっと昔、お爺とお婆が作ってくれた時、ヨモギの濃い香りに感激した記憶が急によみがえってきたのである。
今では、お爺に餅をつく元気はないし、お婆も足腰がすっかり弱ってヨモギ摘みには行けなくなっていた。
「皆で作ろう。お爺とお婆にも食べさせてあげたいし」
そういうことで、高香を先頭にして、疾風、聖羅、紫野、雪、綾ね、与助、太平――いつもの七人は春の野に出ていった。
皆美味しい団子餅が食べられるとあって、おおはしゃぎだ。
ヨモギはいたるところで新緑の葉を伸ばしているので、摘むのには苦労しない。
籠は、じきに一杯になるだろう。
もう少し季節がゆけば、ヨモギの葉は様々な効能のある薬となる。
高香はつい職業癖を出して、皆にそれを諭しながら摘んでは、「すまぬ。今は忘れてくれ」と反省している。
だが疾風は興味を持った。
「ヨモギを煮出してそれに体を浸けると、腰痛にいいのか? なら今度、親父に試してみよう」
「菜の花を混ぜたらどうかしら?」
一方で、菜の花の黄色が好きな雪がそっと提案する。
だが残念なことに、「なの花はにがいから、や」と綾ねが言ったために、それは採用されなかった。
皆の笑い声を聞きながら、紫野は少し離れ、ヨモギの群生の中で自分の世界に浸る――ヨモギの若葉は、とてもいい香りがした。
(ちょっと高香の香りに似てる)
目を閉じたままそう思い、微笑を浮かべた。
少し転じれば高香そのひとが見えるのだが、紫野はそうはせず、ただ瞼に高香の姿を浮かべる。
そのままヨモギの葉に顔を埋めてじっと匂っていると、聖羅の声が飛んできた。
「おい、さぼるなよ紫野」
結局八人で十分過ぎるほどのヨモギを摘み、全員真っ黒になった手で、柔らかい葉だけを丁寧により分けたり、洗ったり、大騒ぎをしながら作業は進んでいった。
持ち寄った餅米を疾風と聖羅が交代でついて、ようやくほかほかのヨモギ餅にヨモギ団子が完成した。