第二百五十話 春の再会(四)
今しがた村人から高香の来訪を聞いた疾風は、さっそく寺へとやって来た。
黙々と庭掃除をしている恵心に、「よう」と声をかける。
「高香が来たんだって?」
恵心は相変わらずの仏頂面で答える。
「はい。ただいまは和尚様とお話をしていらっしゃいます」
「ふぅん。――紫野は?」
恵心の小さな目が陰険に光る。
「さあ。そこらへんにいるでしょう」
それでも疾風はとりあえず礼を言うと、庭を回って紫野の部屋の方へと行った。
が、そこに紫野の姿はない。
さらに奥へ進むと、和尚の声が聞こえてきた。
「……おお、そんな遠くへ」
盗み聞きをするつもりはなかったのだが、つい疾風は低木の茂みに身を隠し、そっと聞き耳を立てる。
だが背中を向けている高香の静かな声はまったく聞こえず、それ以降は和尚も黙り込んでただ相槌を打つだけになってしまったので、疾風もあっさりその場を離れることにした。
ふたたび恵心の前を通り、今度は逆方向から裏庭へ回ると、果たして紫野が石段にひとり腰掛けているのが見えた。
「紫野」
紫野が振り返った。
何となく、どぎまぎしている。
だが疾風はできるだけ、屈託なく言った。
「高香が来たって?」
近づいて紫野の横に腰を下ろすと、紫野もいつもの如く平然と、「ああ」と答える。
「今着いたんだ。ミョウジと話してる」
(また聖羅に茶化されたな)
直感でそう思い、疾風は腹の中でくっくと笑った。
――こいつら、仲がいいんだか、悪いんだか。