第二十五話 円嶽寺の怪僧(二)
智立法師はある時、彼を呼んで問い掛けた。
「丞蝉よ。お前は何ゆえに仏の道を修行しておる。お前がそうやって荒行に励むことは悪いことではない。じゃが、わしの目には、その行いの裏にお前の邪な心が見え隠れするのじゃ。お前は何を願うておるのか」
すると丞蝉はしっかと師を見据え、身じろぎもせずに答えた。
「師よ。我が願うのは、ただ己を強くすることのみでございます。この身の鍛錬こそ、精神の昇華に通じるもの。御仏により近く添えることだと信じております」
「うぬ……」
その答えに智立法師は腕組みをし、じっと考え込んだが、それで納得せざるを得ないようだった。
丞蝉が早々にその場を立って部屋から出て行く後ろ姿を見送りながら、それでも智立法師は釈然としない思いにかられていた。
あやつの影に、どうにも暗いものが見える。まこと御仏の心に添う覚悟ならば、どうしてあのような影が見えようか。
「法師」
その時、まだ若い、涼やかな声がした。
智立ははっと顔を上げると声のした方を振り返る。
「おお、高香か。どうした、何か用か?」
「はい。ただいま、幸元様お見えでございます」
高香と呼ばれたその少年僧のきりりとした明白なたたずまいは、しばし智立に丞蝉に抱いた不安を忘れさせてくれた。
「何? 幸元様が? 相わかった。すぐに参る」
しかし、やはり目は再び丞蝉が消えた後を追う。
「何か心配事でもおありなのですか?」
その時、気遣うように高香が言った。
その目に肉親への情と変らぬ思いがこもっているのを認め、智立は優しく言葉を返した。
「いや、大事ない」
「それならば、よろしいのですが……」
端正な顔をほっとしたようにほころばせたものの、高香の瞳にはまだ何か言いたげな思いが浮かんでいるようであった。