第二百四十八話 春の再会(二)
紫野は、新しい葉を探す仲間たちに声をかけた。
「おおい、俺は帰る。高香が来たから」
すると皆いっせいに顔を上げ、こちらを見、歓声を上げた。
皆、高香のことは大好きなのだ。高香、と手を振りながら嬉しそうに笑う。
するとまたしても聖羅が、紫野に冷やかしの言葉を投げたではないか。
「嬉しいな、紫野。大好きな高香が今年も帰って来てくれたぞ」
雪が聖羅の顔を唖然と振り向いたのが見えた瞬間、紫野の頭に血が上り、とたんに顔がぱっと赤らんだ。
「うるさい、聖羅。余計なこと言うな! ちゃんと雪たちを送ってやれよ」
ぶつけるようにそう言うと、高香の先にたって小走りに歩き出す。
ふっと笑った高香は子供たちに手を振り、紫野の後から歩いていった。
子供たちの明るい声がまだ後ろで響いている。
紫野は照れているのか怒っているのか、こちらを振り向こうとはしなかったが、段々に歩く速度が落ちてついに高香が追いついた。
肩を並べても紫野は黙っている。
高香は少々可笑しくなった。
「ずいぶん背が高くなったな。離れて一年しかたっていないというのに見違えたぞ。剣術はどうだ? 相変わらず腕を磨いているのか?」
「磨いているよ」
「疾風には勝ったか?」
「時々勝つよ」
「何を怒っている?」
ようやく紫野が、ぱっと振り向いた。
「高香にじゃない、聖羅にだ! あいつ、いつも余計なことばかり……」
背中を見せて、土手の上をさっさと行ってしまう紫野を見て、雪は寂しい気持ちにならざるを得なかった。
(やっぱり紫野は、高香が一番好きなのかしら?)
聖羅が後ろから、「雪」と小さく呼ぶ。
雪が振り向くと、聖羅は「気にするな」と、声に出さずに言った。そして、
「さあ、もう一度、舟を流すぞ。今度こそ、俺が勝ちだ」
と声を張り上げた。