第二百四十七話 春の再会(一)
その時、真上から聞き覚えのある声が降ってきたのである。
「紫野」
紫野は、はっと顔を上げた。
その声の主が誰であるか、すぐにわかったのだ。
「高香!」
紫野は笑顔を見せながら、大急ぎで土手を駆け上がって高香の前に立った。
高香はいつもと変わらぬ旅姿の格好で、薬箱を背負い、日よけの笠を被っている。
熊よけの鈴のついた杖が、ちりりんと鳴り、高香は笠の下から優しい瞳を紫野に向けた。
「大きくなったな、紫野。いくつになった」
やっぱり紫野は、「嬉しい」という表現が下手だ。
ただ身を乗り出すように、忙しなく答える。
「十四さ。高香、今年も夏が終わるまでいる?」
高香は笑った。
「ああ、そのつもりだ。また会えて嬉しいよ、紫野」
すると、初めて紫野もぎくしゃくと照れ笑いし、
「俺もだ、高香」
そして、
「今から寺に行くの?」
と聞いた。
ちらりと皆の方を見る。
綾ねが、今度は雪と一緒に新しい葉を探しているのが目にはいった。
雪の笑顔がまぶしい……。
そんなことを思っている間に高香が「そうだ」と答え、紫野は咄嗟に言った。
「じゃ、一緒に行く」
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いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
この回は600字に満たないため、あとがきなんぞを無理矢理入れてみます。^^;
じつはこの回は、私にとってとっても意味のある回なのです。
この小説のサブタイトルにもありますように、「陰陽伝昔語り」、つまり昔語りをしているのでありまして、ここから『陰陽伝』という本編へリンクしているのです。
って別にこれは無視してくださいませね。
こんなことを書くのは、600字に満たないからなんですよ。
これでOkかいな^^;