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第二百四十六話 葉の舟(二)

 葉の舟は、水の流れにくるくる回ったり、時々岩に引っかかって止まったりしながら川下へ流れていった。


「そら、行け!」

 だが紫野がそう叫んだとたん、紫野の舟は水草にとらえられてゆっくりと止まってしまった。

 そして集まってきた小魚に、下からつんつんとつつかれて、あっさりと引っ繰り返ったのである。

「ありゃ、紫野兄ちゃん、ざんねん」

 綾ねは「ざんねん」と言いながらも、自分の舟が順調なことに喜びを隠せない。

 息を弾ませて、さらに雪と一緒に走っていく。

 後ろから聖羅が追いついて、落胆する紫野の肩を叩いた。


「魚に復讐されたな」

 聖羅は紫野がいつも魚たちの頭を足の指でつつきたがっているのを知っていた。

 紫野はそのことに気づき赤くなると、走り去る聖羅の背中を見ながら、(もう絶対につつくものか)と心に決めた。


 ずっと先で綾ねの甲高い、勝ち誇った声が上がり、この競争の勝利者をはっきりと示した時、紫野はある意味少しほっとした。

 これで綾ねも今日一日は機嫌よくいてくれるだろう、と。


「もう一回、やるぞ」

 聖羅が息巻いている。

 もう十五歳だというのに、こんな遊びにもむきになる聖羅を、いけないことだが、つい見下してしまう気持ちに紫野はなっていた。

 が、不思議な気もする。

 聖羅はもう女を抱いているのだ。


(――俺は雪を見ているだけで、どきどきするというのに)


 最近の紫野には、聖羅が理解できなくなっていた。

 ばかりか、かれのちょっとした言葉にも(とげ)を感じてしまう。

 聖羅といても、疾風といる時ほどの安心感は到底得られない。

 いつもちくちくするほど不安定で、居心地の悪さを感じさせる聖羅――それでも、紫野は聖羅が嫌いではなかったし、気がつけば一緒にいることが多かった。


(聖羅といるのは疾風といるほど自然じゃない、ただそれだけのことなんだ)


 眉をしかめて自らそう納得すると、紫野も皆のところへ行こうと走り出しかけた。

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