第二百四十五話 葉の舟(一)
春にしては陽射しが強く、川遊びにはもってこいの日だった。
紫野は聖羅や雪たちと、川の中腹で葉の舟で遊んでいた。
この辺りは川幅も広すぎず狭すぎず、流れはやや速い。
それでも深くないので安心だ。
それぞれ選んだ葉を小舟にして、そこに小石を乗せて同時に流す。
そして誰の舟が一番速く、かつ無事小石を落とさずにある地点まで行きつくかということを競うのである。
与助と太平は相変わらず綾ねの世話をさせられている。
かれらは綾ねのために、肉厚のそれでいて大きすぎない葉を慎重に選び、軽い小石をより分けてそっとその上に乗せた。
綾ねはご機嫌である。
「綾ねのおふねは、紫野兄ちゃんのとなりがいい!」
川に入って舟を流すのは、聖羅と紫野と雪の役目だ。
綾ねと与助と太平が、岸に立ってそれを見守っている。
「じゃ、行くぞ」
聖羅はそう言い、自分の舟と太平の舟を持って流れの中に入っていった。
次に着物の裾を上げた雪が、自分の舟と与助の舟を持ってあとに続く。
そして最後に紫野が、同じく自分の舟と綾ねの舟を持って入り、三人は横一列に並んだ。
水は三人のすねの辺りを、音を立てて流れてゆく。
まだ手を離れていない小舟は、緩やかな風にも飛んでいきそうであった。
「綾ね、いいわよ」
雪がそう言うと、綾ねが赤い頬をふくらませて、
「それじゃあいくわよ。ようい――どん!」
元気よく号令をかけた。
水の上に浮いた小舟はあっという間に流れていき、三人も水から出ると、皆川岸を走って追いかけていった。
小岩がいくつか突き出た難所では小さな渦ができ、それに飲まれて与助と太平の舟が見えなくなった。
そして何とかその渦をよけきった聖羅の舟からも、積んでいた小石が消えてしまっていた。
「あーあ」
聖羅は落胆の声を上げ、走るのをやめてしまったようである。
なおも雪と自分の舟を追いながら、紫野は(うふふ)と微笑んだ。