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第二百四十三話 雪の苦悩

 草の芽もいぶき、春の太陽は心地好い陽射しを投げかけていたが、雪は洗った着物を干しながら、ひとりため息をついていた。

 以前、聖羅に「紫野を待てるか」と言われ、「待てる」と答えた自分の心が消えかけていたからである。

「お珠ちゃんが、疾風と……」

 今はそのことしか頭に浮かんでこない。

 知らず知らず半泣き顔になった雪を、仰ぎ見るようにして綾ねが小首をかしげた。

「姉ちゃん、お腹痛いの?」

 雪はついに、疾風に相談する決心をした。


 春になると霞組の三人は、たいていいつも一緒に行動している。ほとんど一日中べったりといってもいいくらいだ。

 雪は疾風がひとりでいる時に声をかけたいと思っていたのだが、なかなかその機会が来ない。

 焦れながら、それでも雪は、普段よりてきぱきと家事を終えると、できうる限りの時間で三人の跡を追っていった。

 そうこうしているうちにようやく疾風が雪の物言いたげな眼差しに気づき、ある日の夕刻、「雪を送っていくから」と言って二人と別れた。


「どうした、雪」

 相変わらず疾風の微笑みは温かい。雪は泣きそうになった。

 だがこの後の疾風の言葉には、飛びあがるほど驚かされてしまったのである。

「実はさ――聖羅が心配するんだ。『雪が疾風ばかり見てる。おまえのことを好きになったのかも知れないぞ』って」

(どうしよう! 何て言ったらいいんだろう! もしかしたら、紫野も誤解してしまったかしら?!)

「そ、そんな……」

 うろうろと両手で頬を覆い、雪は口ごもる。

 すると疾風はあっはっはと笑った。

「だが雪の目を見てそうじゃないってわかった。――雪、俺に何か言いたいことがあるんだろ? まつさんのことか?」

 疾風の心遣いに感謝しながら、雪は少しほっとすると、これで腹が据わったかのように一気に話し出した。

「ううん、違うの。紫野のこと――疾風、あたし、紫野があたしのことどう思っているか知っておきたい」

 雪は視線を落とすと、あかぎれた両手をこすり、

「疾風とお珠ちゃんのこと、聞いたわ。あたし……お珠ちゃんがうらやましくて」

 今度は疾風が戸惑う番である。「え?」と頭をさする。

 雪は真剣に言った。

「あたし、紫野のお嫁さんになりたいの。もちろん、もっとずっと先でいい。でも紫野があたしのこと嫌いなら――」

 そうして、唇を強く噛んだ。

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