第二百四十二話 珠手の告白
幼い頃、自分を本当の妹のように可愛がってくれた珠手とは、綾ねが生まれてからは何となく離れてしまった。
雪自身が『お姉さん』になることで、珠手にとってはもう昔のように可愛がる対象でなくなってしまったのかも知れない。
(でも、それだけじゃないような気がする)
正直雪は、疾風たち三人のこともからんでいるような気がしていた。
珠手が疾風に好意を持っていることは薄々気づいていたので、雪は疾風とは距離を置くようにした。
けれど雪は三人が大好きだったし、三人も雪といることを心安く思っているようだった――さらに父が亡くなってから、疾風は何やかやと力になってくれたのだ。
しょっちゅうのぞいて家のあちこちを修理してくれたり、冬には他の家よりも多くの薪を届けてくれたり。
「雪は強いな。だから俺は、元気をもらいに来るんだ」
そう言ってくれた。
(紫野はちっとも来てくれないけれども)
とにかくそういうことが、珠手に壁をつくってしまったのかも知れない。
むろん離れたといっても、同じ村にいることは変わりないから顔を合わせることは多かったのだが、そのたびに決まりの悪そうな顔をされることが、たまらない。
――あたしは、紫野が好きなの!
そう叫んでしまいたかった。
そういういきさつがあったから、このたびの珠手の告白には本当に驚いてしまった。
「雪ちゃん、私、ついに疾風と……」
そう言いかけて頬を赤く染めた珠手は、嬉しそうに、だが下を向いた。
満面の笑みである。雪は思わず、声を上げた。
「お珠ちゃん、本当に、疾風と?」
珠手は慌てて「しいいっ!」っと制し、「嫌だわ、雪ちゃんったら、そんな大声で」――言いつつ両の袂で顔を覆う。そして声を潜めた。
「この間疾風が野菜を持って来てくれた時、お父ちゃんが疾風に『今度泊まっていけ』って言ったの……で、昨夜、疾風が泊まりに来てくれて……」
雪に対する優越感もあるのだろう。珠手は何もかも隠そうとはしなかった。
自分が好きだと言った時、疾風が優しく抱き締めてくれたこと。
初めての体験は、ずっと目を閉じていたからよくわからなかったけれど、でも思っていたよりも怖くなかったこと。
「ああ、雪ちゃん。夢のようよ」
感極まって泣き出した珠手を、雪は胸を締めつけられるような気持ちで見ていた。