表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/360

第二百四十一話 天上の人々(二)

 森の出口からは一本の道が小門をへて大門まで続いていたが、その大門の横から高い塀がめぐらされ、中の屋敷はまったく見えない。

 長槍を携えた足軽兵が数人、いかめしい顔つきで突っ立っている。

 屋敷の後方にはところどころ松がはえた岩山が迫り、盆地状態の地形に、屋敷は首尾よく守られているかのようであった。


「だけど、明るいうちに動く忍びなんて聞いたことないぜ」

 その聖羅の言葉に、疾風はもっともだという顔をし、

「なら暗くなるまで待つか。それともあきらめて引き上げるか」

 と言う。

 すると、紫野が言った。

「堂々と正面から頼めばどうかな。屋敷の中を見せてくださいって」


 一瞬、きょとんとした二人は、次の瞬間、聖羅は吹き出し、疾風は眉をよせて苦笑した。

「残念だが……それは無理だろう、紫野。この立て札には、入れば打ち首にするって書いてある」

 聖羅はすでに、腹を抱えて笑っていた。

(そんなに笑うなんて、失礼だ)

 顔を赤くするも、一言も言い返せない紫野である。

「おまえって、ほんとに馬鹿正直なのな……いや、好きだぜ、紫野」

「おれは聖羅のこと、嫌いだ」

 紫野がついにきれ、それでも聖羅は笑っている。

 二人の様子に疾風も快活に笑い、結論を出した。

「まあここから見るだけにしておこう。もし忍びこんで何か騒動にでもなれば、親父や村にも迷惑がかかる。しょせん、俺たちには見果てぬ夢なのさ」


 そうして三人は柵に手をかけて、しばらく天井人の屋敷の方を眺めていた。

 黒塗りの大門の瓦が、陽光を反射するように輝いている。


「せめて、あの門が開けばなぁ」

「ああ、そうだな。だけど聖羅、おまえは想像するのが得意だろう? あの門の向こうにどんな屋敷があるか、そしてどんな人間がどんな風に暮らしているのか、想像しろよ。きっと楽しいぞ」

 そう言われ、聖羅は素直に目を閉じると想像を始めたようである。

 ちらりと聖羅を見た紫野も同じように瞳を閉じたが、結局何も浮かんではこなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ