第二百四十一話 天上の人々(二)
森の出口からは一本の道が小門をへて大門まで続いていたが、その大門の横から高い塀がめぐらされ、中の屋敷はまったく見えない。
長槍を携えた足軽兵が数人、いかめしい顔つきで突っ立っている。
屋敷の後方にはところどころ松がはえた岩山が迫り、盆地状態の地形に、屋敷は首尾よく守られているかのようであった。
「だけど、明るいうちに動く忍びなんて聞いたことないぜ」
その聖羅の言葉に、疾風はもっともだという顔をし、
「なら暗くなるまで待つか。それともあきらめて引き上げるか」
と言う。
すると、紫野が言った。
「堂々と正面から頼めばどうかな。屋敷の中を見せてくださいって」
一瞬、きょとんとした二人は、次の瞬間、聖羅は吹き出し、疾風は眉をよせて苦笑した。
「残念だが……それは無理だろう、紫野。この立て札には、入れば打ち首にするって書いてある」
聖羅はすでに、腹を抱えて笑っていた。
(そんなに笑うなんて、失礼だ)
顔を赤くするも、一言も言い返せない紫野である。
「おまえって、ほんとに馬鹿正直なのな……いや、好きだぜ、紫野」
「おれは聖羅のこと、嫌いだ」
紫野がついにきれ、それでも聖羅は笑っている。
二人の様子に疾風も快活に笑い、結論を出した。
「まあここから見るだけにしておこう。もし忍びこんで何か騒動にでもなれば、親父や村にも迷惑がかかる。しょせん、俺たちには見果てぬ夢なのさ」
そうして三人は柵に手をかけて、しばらく天井人の屋敷の方を眺めていた。
黒塗りの大門の瓦が、陽光を反射するように輝いている。
「せめて、あの門が開けばなぁ」
「ああ、そうだな。だけど聖羅、おまえは想像するのが得意だろう? あの門の向こうにどんな屋敷があるか、そしてどんな人間がどんな風に暮らしているのか、想像しろよ。きっと楽しいぞ」
そう言われ、聖羅は素直に目を閉じると想像を始めたようである。
ちらりと聖羅を見た紫野も同じように瞳を閉じたが、結局何も浮かんではこなかった。