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第二百三十五話 新しい警固頭(二)

「どうしてやつらは女を連れ去らなかったんだろう?」

 警邏小屋で藤吉から野盗の話を聞き終えた時、不思議そうに風太が言った。

 すると、蓑介という初老の男が「そこだ」と言いつつ白い髭の生えたあごを撫で、感心した時に見せる癖で小鼻を膨らませた。

「つまりこの野盗の集団には、力の強い頭がいるってことだ。むやみに女を連れ帰ったりすると、群れの統制を乱すもとになるって知っているわけだ」

「なるほど」

 誰もが唸り、

「力の強い頭、か……」

 と疾風が繰り返した。

 数馬が言う。

「じゃあこれは手強いな」


 パチパチと、火の中へ放り込んだ枝がはぜた。

 手に持った小枝を、つい歯噛みしながら翔太もぼそりと漏らしたことである。

「いっそ侍の乱獲りみたいに皆バラバラな方が退治しやすいのだがな」

「どっちにしろ、敵はもうあの辺りにはいない」

 藤吉が言った。

「とにかく明日から柵作りだ。村人たちも、むろん総出になる」

 皆それを聞いて、一様に顔を引き締めるのだった。

 霞組の三人も、彼ら大人と変わりない働きを求められている。

 たとえば柵は普通の柵ではなく、竹を削った槍状のものを使うが、それは自分たちが先導して仕上げなければならないのだ。

 その夜、全員遅くまで村の地図をながめ、柵を施す場所を決めていった。


 それから二、三日、作業は順調に進みつつあり、的確な場所を押さえたことで藤吉の警固頭としての評価は安定したようである。

 嘉平次も井蔵に接するように藤吉と接し、疾風としてもそれを見るのが心から嬉しかった。


 ところで、紫野と聖羅も頑張ってはいたが、違う意味で、どうしても村の女たちの目を引いてしまう。

 女たちは何やかやときっかけを作っては、二人に話し掛けてくるのである。

 そして年頃の娘たちは、疾風や数馬や風太も放ってはおかない。

 娘たちが握り飯や白湯を運んでくるたびに、作業は中断されがちとなった。

「若いもんはええのう」

 もう一人の年行きの男久治郎が、前歯のほとんど抜け落ちた歯茎を見せながら笑った。

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