第二百三十三話 疾風の瞳
秋風も日増しに冷たくなり、草路村にもまた冬が訪おうとしていた。
今日も三人は山に分け入り、木の実などを探すかたわら薪にする枝なども集めて回っていた。
今日集めた枝は、すべて村の寄り合い場に持っていく。そこから病人のいる家や、雪のような男手のない家に配られるのだ。
昼を過ぎるまでに三人は、山と寄り合い場を二往復してかなりの枝や木片を運んでいた。
だがあの日以来、聖羅は紫野と口を利いてくれない。
「聖羅なんか、大嫌いだ」
紫野はそう言った自分を後悔していた。
(いつもは大嫌いなんかじゃないんだ。あの時、ついそう言っちゃったんだ)
それでも素直に謝れなくて、紫野は悩んでいた。
疾風に相談すると、
「簡単だ。すまぬって、一言言えばいい」
と笑うだけだ。
疾風は何事もなかったように、普段のままで二人に接している。
もしこれが疾風だったら、紫野は素直に謝れただろう――だが聖羅の場合は、ちょっと違うのだ。
紫野はもうずっと、聖羅のまわりに彼だけを包む光の膜のようなものを感じてきた。
そんなものは、疾風にもミョウジにも、高香にさえ感じないというのに。
そしてそれゆえに、紫野は聖羅には何となく溶け込めないものを感じていたのである。
ついに昨日、恐る恐るそのことを疾風に話してみた。
すると疾風は瞳を大きくし、とても驚いた風に、
「そうか? だったら、おまえと聖羅はとてもよく似てる」
そして笑った。
「俺と?」
紫野は意味がわからない。が、疾風はうなずいた。
「俺から見たら、紫野、おまえだって何か膜をはってるように思うぞ。特におまえが集中している時は、誰も声も掛けられない」
意外であった。
自分がそんな風に思われていたなんて。
疾風はまた快活に笑った。
「だが、おまえの言うこともわかるような気がする。たしかにあいつには、人を拒んでいるようなところがあるからな。だがそれはきっと、聖羅がずっとひとりで頑張ってきたからなんだ。決して俺やおまえを嫌いなわけじゃない」
そうして疾風は澄み切った瞳を紫野に向けた。
「俺は、おまえや聖羅に出会えたことは運命だと思ってる。二人とも、俺の大事な一部だ。この先、何があろうとも――俺はおまえや聖羅にも、そう思って欲しい」
そのすべてを包んでくれそうな瞳は、その夜、紫野の夢に現れて、紫野の心を熱くさせた。