第二百二十四話 青天の霹靂
夏に入る頃から、聖羅の行動はますますおおっぴらになった。
そしてついに二、三日姿をくらませていたかと思うと、いきなり疾風と紫野の前に現れて、「おしらのところへ行ってきた」と言うではないか。
髪には一筋、飾り紐が編み込まれてある。
さすがに疾風も驚いて聞き返した。
「京へ行っていたのか?」
「ああ」
どうやら、ナガレボシを飛ばしてきたらしい。
一度行った道を忘れないのも聖羅の特技だ。
「まさか、おしらと会って……おまえ」
「そのまさかさ」
聖羅はしらっとしている。
紫野と疾風は思わず顔を見合わせ、だが言うべき言葉をなくした。
逆に聖羅はくるりと振り向くと、「聞いてくれ!」――そう言ってとつとつと話し出したのである。
先日、細魚村に行った時のことだ。
聖羅はまた小笹に会ったのだ。そして彼から意外なことを聞かされた。
小笹はけらけらと笑い、
「すまなかったなぁ。おめぇの操を奪わせちまって。まあ、あのふく女は縁起の悪い女じゃない。許せよ」
青天の霹靂であった。
何しろ、聖羅に意識はなかったのだ。
それにしても、何ということだろう!
聖羅はあちこちの娘と口を合わせながら、最初に体を重ね合うなら誰がいいかと、彼なりに真剣に探していたのである。
そんな時、小笹から聞かされた――自分はもう清童ではないという事実。
(ひどい。そんなの、あんまりだ!)
快感も、感慨も、何もない。
すべては意識のないままに終わってしまっていたのだ。
聖羅は混乱した。
そして混乱したまま、なぜかおしらを思い出し、一気に京へと駆けたのだった。
ところが話を聞いたおしらが声高く笑い、快く聖羅の頼みに応じてくれたにもかかわらず、緊張のためか聖羅は思ったよりも満足を得ることができなかったのである。
(こんなものか)
それが最初の感想だった。