第二百二十三話 ふくらむ胸
「見事な剣だ」
高香は紫野の長剣を、手には触れずに目を細めてみた。
紫野が嬉しそうにきびきびと言う。
「今、これを使いこなせるよう練習してる。長いから、いつもより高く飛ばなくちゃいけないし、背中から抜いてまた元に戻すのがなかなか難しいんだ――でも大丈夫、すぐに慣れると思う」
そして長剣を背負って見せた。
廊下を恵心が「ふん」と鼻を鳴らし、過ぎていく。
あの稚児事件以来、恵心はますます紫野に冷たい。
紫野は事情がわかっていなかったせいもあって、一言も和尚に告げ口などしなかったというのに。
だが紫野の方では、恵心に関心はない。
両腕を振り上げつつ、さらに言った。
「疾風と聖羅も……疾風のは見たことがないくらい、大きくて重いんだ。聖羅は平蔵に鞭をもらった。すごく長い」
高香は和尚と目を合わせ微笑むと、
「そうか。私は剣のことはわからぬが、三人とも、立派な剣士だな」
そして作造の持ってきた茶を一口飲んだ。
「足軽兵や山賊がうろついていて困るのじゃ」
和尚のその言葉には眉を険しくした高香であったが、作造が、
「それは霞組にまかせてよし、じゃの」
と言ったのを受けて、紫野が、
「おぅ」
とこぶしを挙げたのを見、すぐに破顔一笑した。
その夜、高香と布団を並べて、だが紫野はくだんの思いに悩まされていることを告白しなかった。
なぜか、今言い出さずともいいような気がしたからである。
(そう、今は高香が側にいるから、別にいい)
高香の温かい眼差しが、声が、それからそのたおやかな身から漂ってくる草の香りが、紫野を落ち着かせていた。
そしてまた夢を見た。
高香の側で、少女になっている自分の。
紫野の胸は雪のそれと違い、ふっくらと膨らんでいたのであった――