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第二百二十話 新しい武器

 その日、疾風の家にやって来た聖羅と紫野は、それぞれ自分たちの武器を渡されて喜びとともに緊張した眼差しでそれを眺めた。

 聖羅には一振りの刀と鞭、紫野には細身の長剣である。

「本物の鞭だ」

 聖羅の声は、明らかにうわずっている。

「じつはな、土蜘蛛は忍びの中でも希代の鞭の使い手なんだそうだ。その鞭も、土蜘蛛が作ってくれたのさ。聖羅、おめぇ、よく教えてもらうといい」

 土蜘蛛という名は、やはり二人には気味が悪いらしい。

 聖羅も紫野も、井蔵のその言葉をさえ怪しむように、同時に目だけを動かして土蜘蛛の方を見た。

 と、この無口な男は二人を見返し、にっと笑う。

 聖羅と紫野の全身にぶるりと震えが走ったのを見、疾風は可笑しくなって下を向くと、笑いをこらえた。


「鞭は九尺だ」

 ぼそりと土蜘蛛が言う。

 たしかにその声には、人を畏怖させる何かがある。

 可哀想に、聖羅はまたも縮み上がった。

「きゅ、九尺も?」

 九尺というと、今まで聖羅が使っていた鞭の約倍の長さである。これを使うとなると、手首の利かせ方、距離感覚、何もかもがまったく違ってくるだろう。

「九尺は、実戦で使う最低の長さだ。わしが教えてやる」


 こんな会話の間に、紫野は自分に与えられた長剣を手に取っていた。

 鞘は深緋(こきあけ)(がく)には龍の透かし彫りがほどこされ、柄頭(つかがしら)縁金(ふちかね)目貫(めぬき)には、やはり波間をうねる龍が細工してある。

 紫野は黒色ひねり巻きの柄を握って、刀身をすらりと抜き放った。

 切先(きっさき)がきらりと光り、荒れ狂う波のような波紋が圧倒的な存在感である。

 紫野はこの素晴らしい剣が、いつも使っている刀よりもずいぶんと細身で長いことに戸惑っていた。

「紫野、おめぇはそれを背中に背負うんだ」

「背中に?」

 驚いて目を大きくする紫野に、疾風がうきうきと言う。

「かっこいいじゃないか。それにこの長剣、綺麗だな。何だか――おまえにぴったりだ」

 紫野は最後の疾風の言葉にはちょっと眉をひそめたが、もう一度つくづくと長剣を眺め、

「……うん。綺麗だ。ありがとう、親父さん」

 と心から満足そうに言った。


 さらに紫野と聖羅が疾風の剣の大きさと重さに驚いている間に、井蔵が土蜘蛛と今後の居について話し出し、忍びの性で人里に住むのははばかられるという土蜘蛛の意を汲んだ結果、聖羅のもといた山奥の家に住んではどうかという話に落ち着いた。

「ついでに」と井蔵が言う。

「その土蜘蛛ってのもやめた方がいい。今日からは、草路村の刀鍛冶、平蔵と名乗れ」


 こうして三人は、今は平蔵となった男と一緒に、(もう気味悪くない) 米や野菜や大工道具を持って、懐かしい聖羅の元家に連れ立っていった。

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