第二百十六話 冬の警邏(五)
「まったくおまえたちは……また乱痴気に騒いでいたんだろう」
聞いたことのある声がし、聖羅は薄っすらと目を開けた。
灯台の光であたりはほの暗い。
自分はきちんとした夜具に寝ていて、顔を横にすると、目の前に佐吉の丸々とした背中が見えた。
そしてその向こうに小笹のすねたような姿――着物は乱れたままだ。
佐吉は言った。
「なぜ私が帰るまで待てなかったんだね?」
それを聞いて吹き出す小笹とは対照に、聖羅の全身は鳥肌立った。
懸命に目を瞑り、眠っているふりをする。
恐ろしい獣の巣に入り込んでしまった気がした。
佐吉の声が、急に近くでした。
「さすがだねぇ小笹、おまえさんは目が高い。じつは私もこの子には目をつけていたのさ……ごらん、この子の髪を。こりゃ南蛮人の血が混じってるかも知れない」
佐吉の指がするりと頭を撫で髪を絡めると、聖羅はついに叫んで飛び起きてしまった。
が、目の前の景色は歪み、目の焦点が合わない。
くらりとした頭を抱えたまま、聖羅は思わず前にのめった。
「おお、気がついたかね――ほらほら、もう少し寝ていなさい。まだ起きあがれないだろう」
佐吉は先ほどの会話を聞かれているとは思っていない様子で、優しげにそう言うと、聖羅の背中に手を当て上下にさする。
(やめてくれ、俺に触るな……)
そう思っても佐吉の手を振り払う元気もなく、すぐにでもここから出て行きたい気持ちとは裏腹に、唇をかんで倒れるように布団に横になった。
もぐり込んで「ううっ」と唸るのが精一杯だ。
目を瞑っていても、くらくらする。
被った布団の向こうで佐吉が思いきり小声でしゃべっていたが、耳のいい聖羅には、聞きたくなくてもその意味ありげな会話が聞こえてしまったのである。
「いや、今じゃない――楽しみだ、この子がもう少し大きくなったら――その方が好みなんだよ――え? 何だって? ――そうかい、そんなことを。だったら嬉しがらせて――そうだね、試してみようか」
(冗談じゃない。やめてくれ!)
布団の中で、心でだけは必死に拒絶しつつ、だがどこかで観念している自分に、聖羅は気がついていた。
とても逃げ出すだけの気力が起こらないのだ。
頭痛はひどく、体中が重たかった。そのうえ節々がぎしぎしと音を立てそうなほど、痛い。
「聖羅」
佐吉の手が布団をまくり、聖羅は頭上に佐吉の微笑む顔を見た。