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第二百十四話 冬の警邏(三)

 小笹が使っている部屋には不思議な匂いと、薄っすら白煙が立ちこめていた。

 部屋のほぼ真中に、小さな壷のようなものが置かれ、煙りはそこからあがっているのだ。

 以前にもいた盲目(めしい)の年増女と子供のような大人男や、あと二人、太った大柄の女と逆に干物のように痩せた女がしどけなく寝転がって、くすくす笑っている。

 熱のせいか、聖羅の頭はぼうっとしてきた。


「まあ、座りな」

 ふらふらと、しゃがみ込むように尻を下ろした聖羅を、体を起こした二人の女は好奇の目で眺めると、甲高い声で笑った。

「あらあ、何ておいしそうな美少年だこと――ねぇ、ここへおいで。あんた、何て名?」

「いくつだい? もう女は知ってるのかい?」

 太った女は豊かな胸を揺らしながら、ねっとりとまとわりつくようにそう言うと、聖羅ににじり寄った。

「おいおい、俺はこいつと話をしようと思って連れてきたんだぜ。ちょっとは遠慮しろってんだ、この醜女(しこめ)どもが」

 小笹はハエでも追い払うように手を振る。

「まったく、嫌なやつだね、小笹。とっとと地獄に落ちな」

 女たちがまた寝転がるのを見届けた小笹は低く笑い、杯に注いだ酒をくいと飲み干した。

 そしてまた酒を注ぐと、今度はそれを聖羅に差し出す。

「飲めよ」

「えっ」

 聖羅はそれを受け取るだけ受け取ったが、どうしていいかわからず、杯をじっと見ていた。が、

「飲めよ」

 ともう一度、小笹に片目を瞑りながらうながされると、反射的に手が上がってしまった。

 初めて飲んだ酒は、聖羅の喉を焼くように胃に落ちていく。そしてすぐに体中がかあっと熱くなった。

「いいぜ、その調子だ」

 小笹は嬉しそうにまた自分に注ぐと、ごくりと喉を鳴らして飲み干す。

 結局、ただ一つの杯は、小笹と聖羅の間を行ったり来たりした。


 聖羅はすでにぼんやりした目で子供男が盲目の女の胸に顔を埋めているのを見ていたが、現実はどこか遠くにあって今目の前のことは本当のことではないような気がしていた。

 二人の女は、いまや、合わせ鏡のようにまたは一対の屏風のように、片肘をついて頭を支え胸をはだけた横寝の姿勢で、妖しく微笑みながらこちらを見ている。

 香の匂いもさっきからきつくなっているような気がする。

 (何の匂いだろう……)

 やっと今になって、聖羅はその香に何か特殊な作用があるのではないだろうかと思い始めていた。

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