第二百十話 鬼の酒宴(二)
ふたたび空が恐ろしく大きく鳴った。
「何だと、わしら鬼を討つだと」
青鬼は大きく頷き、苦々しげに言葉を続ける。
「ミケイリノミコトめ。あやつ、すっかり人間の味方になり下がったのだ。神ともあろう者が、人間を守りたいなどという情け心をだしやがった。それで我ら鬼と対等に闘える力を授けおったのだ」
「そ、それでその人間がわしらを殺すようになるというのか」
「だがそいつ一人では、どうにもなるまい。わしらの仲間は大勢いる……」
「ところがそいつもどんどんと子孫を残すだろう。そしてその子供らは、皆その妖力を受け継ぐはずだ」
五匹の鬼は、すでにうろたえ始めていた。
「おのれ、ミケイリノミコトめ。何ということを」
髪の縮れた赤い肌の鬼はそう言って泣き、黄色くくすんだ肌色の太った小鬼がなぐさめるようにポンポンとその背を叩く。
緑色に痩せた鬼も頭を抱えて、真っ黒な巨大鬼は、腕組をしたままただため息をついた。
青鬼が言った。
「我らは一度、滅ぼされるかもしれん。じつはわしにはそれが見える。しかし――いいか、我ら鬼は未来永劫、死ぬことはない。この姿は消滅しても、卑しい人間どもの心に棲みついて操ることはできるのだ」
「なるほど。人間の悪の心を利用して傀儡にすればいいのか」
「そうだ。そしてこれからは、それこそが肝心なのだ――我ら鬼が繁栄していくために」
「その子供も殺そう」
黄色い小鬼のつぶやきは、それは静かに発せられた。
皆がいっせいに頷く。
緑の鬼が言った。
「どうやって捜す?」
すると青鬼は、頬のホクロを突つき、
「おそらく、その子供の使命は血に染み込んでいるはずだ。だからきっと向こうの方で我らに引き寄せられる」
と言う。
「それは子供の方が傀儡を見つけるということか」
赤鬼が目をこすった。
「そうだ。そうしたらその子供を、傀儡に殺させればよい」
「わしなら傀儡にその子供を屈服させるな。神々の力も、手に入れてやる」
おもむろに腕を組みなおした黒鬼の言葉には他の鬼たちをひきつける何かがあったようだ。
急に鬼たちの肌がぴかぴかと輝き始め、月が赤く染まった。
「それは面白い」
「わしもそうしよう」
その決着に満足した鬼たちはまた肉をかじり、酒宴は続けられるかのようだった。
もはや何の音もしない。
白い霧がどんどん濃く高くなり、それからその夢自体が遠く、はっきりしなくなった。