表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/360

第二十話 約束(三)

 その時、「すごいなぁ、聖羅」と声がして、聖羅は驚いて振り返った。

 すると自分と同じような子供が二人、こちらへ歩いて来るではないか。


「誰だっ?!」


「俺は疾風。この子は紫野だ。覚えてないか?」


 そのとたん、聖羅の顔に露骨に嫌悪が走る。

 昨夜のことを思い出したのだろう、怯えたように声が引きつった。

「……帰れ!」


「聖羅、俺の父ちゃんはこないだお前のお爺を沢で助けたんだ。その時お前のことを聞いて、俺にも話してくれた。そして友達になってやれと言ったんだ。お爺もお婆も、お前には仲間が必要だと思ってる。だから俺と友達になろう」


 聖羅は、お爺を助けたと言われ、明らかに面食らって口が利けずにいる。

 疾風は続けた。


「昨日長吉が言ったことは謝る。あいつは俺の弟分なんだ。あいつもお前に悪かったって。もう二度と言わないって」


「……」


 無言の聖羅をよそに、疾風は紫野の肩に手を掛け紫野を促した。

「さあ、紫野、聖羅と友達になろう」


「ばっ、馬鹿なことを言うな!」

 聖羅は真っ赤になって叫んだが、逃げ出そうとはしなかった。そして目の前に立った紫野を見た。


 紫野の黒い瞳が輝き、聖羅の鼻腔が膨らむ。

 小さな手がすっと上がって聖羅の髪を指差した。


「きれい」


 いつも見慣れたお婆の皺深く枯れた肌とは違い、艶やかな黒髪をしたおかっぱの紫野の白く透き通るような肌を間近に見て、聖羅は不覚にも戸惑い、見とれてしまった。はっと気付くと、紫野も聖羅の顔をじっと見ている。

 その白い顔にぱっと笑顔が咲いた。


「しのというの。せいらというの?」 


 ますます聖羅の顔が赤く染まる。


「きのう、とってもきらきらしてた。きれいだった。しの、よく見たかったの」


「よかったな、紫野。ほんとだ、聖羅の髪は柔らかそうだ」



 そして疾風は聖羅に年上らしく落ち着いた声で言った。


「聖羅。お前には父ちゃんも母ちゃんもいない。俺には父ちゃんはいるが母ちゃんはいない。そして紫野にも……紫野もひとりきりだ。俺たちは似てる。仲良くしよう」

 

 髪を紫野にいじられながら、聖羅は疾風の言うことを黙って聞いていた。が、唐突に、腹の底から言葉が湧いて出たようだった。


「……俺は鬼の子じゃない」


「ああ。違う」


「……俺は変じゃない」


「ああ。変じゃない」


「俺は……俺は、捨てられたんじゃない」


 しゃくり上げ始めた肩が上下し、紫野ははっとした。

 聖羅の目から涙がこぼれ、頬を濡らしてゆく。

 紫野の手が咄嗟にその頬を拭い、疾風が二人を包み込むように抱いた。 


「俺たちは三人で一人だ」


 疾風の体の温かさが、二人に伝わっていく。


「これからどんなことがあっても、一緒に乗り越えるんだ。……俺がお前たちを守る」



 自分の耳元に聞こえる疾風の声を、聖羅は信じられない夢のような思いで聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ