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第二話 出会い(二)

「さあ、たくさん食べるといい」


 幼子の前に、(かゆ)と焼いた芋が出された。

 幼子は喉を鳴らすと、小さな手を精一杯伸ばして(わん)を手に持ち粥をすする。それから芋を握ると、無心にかぶりついた。


「それそれ、ゆっくり食べなさい。喉に詰まると苦しいぞ。わしの名は妙心じゃ。おまえさんは何という?」


 一瞬、幼子の動きが止まり、芋をくわえたまま目だけがくるりと和尚を見た。

「……」

 和尚は、思わず頭をかきつつ苦笑する。

「すまん、すまん。そうじゃったな、まずは食べなさい」

 作造もゆっくりと和尚の隣に腰を下ろすと、まじまじと幼子を見た。

「お前……男、女、どっちじゃな?」

 すると幼子は口をもぐもぐさせながら、丸々とした目を上げてあどけない声を上げた。

「しの」

 作造はぽかんと口を開け、和尚はまたも破顔一笑したことである。

「そうか、しのというのか。しの、芋は上手いか?」

 うん、と頷いて、幼子は初めて笑顔を見せた。素直な、屈託のない笑顔であった。

 が、もうすでにこの子の運命を受け入れている和尚と違って、作造は依然心穏やかではない。

 その笑顔がかえって不憫を誘うように思われ、ひとりため息をついてつぶやいた。

「可哀相にのう……捨てられたも知らず」


「作造」


 その時和尚の静かな声がした。

 振り向いた作造に、和尚は目に強い光を湛え、ゆっくりと頷いて見せたのだった。

「作造、あとでしのを湯に入れてやっておくれ。しのは縁あってこの寺へやってきた、もうここの子供じゃ」

 和尚のその様子に寺男の作造の気持ちも固まった。

 ――自分はただ、寺と妙心和尚に仕えればよい。

 へい、和尚様と答えると、作造はしのの頭をひと撫でし、しのが食べ終えた膳を片付け部屋を出て行った。


 しのは小さくげっぷをし、満足そうに腹を撫でていたが、いきなり、

「おっかあはどこ?」

 と和尚を見上げる。


(さてさて、困った)


「しのや、今日からはこの寺がおまえの家じゃ。そしてわしが、おまえの父じゃ。よいかの?」

 こんな小さな子がそれで納得するとは思えず、それでも無理に微笑んで見せた和尚だったが、意外にもしのは、

「うん!」

 と明るく言った。


(おそらく今はまだよくわかっていないに違いない……じゃが、思いのほか強い子なのかも知れぬ)


 曇っていた空は、もうすっかり暗くなっていた。

 どうにか雨は降らずに持ちこたえたようである。

 明日の夜は、子供たちも楽しみにしている村祭りだ。

 和尚も作造も、そして小坊主の恵心(えしん)も、明日は朝から忙しくなるはずであった。

「仕方ない。恵心に守りをさせようかの」

 そうひとりごとを言うと、「おいで」としのに手を差し出した。

「おいで。湯を使いに行こう。気持ちがいいぞ」

「うん」


 ――こんなにも小さな手。しかし温かい……

 

 和尚は、自分の手を握ってくる小さな手の感触を、不思議な気持ちで感じ取っていた。

(わしはこの手を離してはならぬのだ。これも御仏の志なればこそ、離してはならぬ)

 その時和尚はそう考えたが、心の奥底では、これこそ愛情以外の何ものでもないと強く感じていた。

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