第百九十三話 予言(四)
「さて、おちびさん。おまえさんはどうする?」
そう言われ、紫野はちょっと怯えた目をおしらに向けた。
それでも思い切ったように右手を差し出すと、おしらは微笑みながらその手を取り――「じゃ」
そう言って、じっと見た。
だがその表情が微妙に変わるのを、疾風は見逃さなかった。
おしらの白い頬が紅潮し、唇と目が少しばかり大きく開かれたのだ。
そしてきれいにそろった歯の間から、「ああ……」というため息ともつかぬ艶のある声が漏れた。
「紫野ちゃん、おまえさん……」
そして顔を上げ、紫野をしかと見た。
「おまえさん、男の子に間違いないね?」
変な質問だった。
どう考えても、変だ。
だがおしらはさらに続けた。
「それともわけがあって、男のふりをしているのかい? おまえさんの人生は、まるで、まるで、女のよう……」
そこまで言って、紫野がかっと顔を火照らせたのを見、おしらは即座にいいわけがましく言葉を継いだ。
「……つまり、おまえさんの側にはいつも必ず誰かがいて、おまえさんを包んでいるのが見えるのよ。どちらにしろ」
おしらの瞳の中に、何か特別な光が宿ったようだった。
それが羨望なのか、悲哀なのか、はっきりしないまま、すぐにおしら自身は瞳を伏せた。
「おまえさんは、ひとりでは生きられない。何か大きな力が、おまえさんを放ってはおかない。望むと望まざるとに関わらず――」
そして、もうそれ以上はないというように大仰な笑顔を見せ、
「大丈夫。皆幸せになるわよ」
と言った。
おしらの小屋を出ると、四人はすでに京に未練を感じず、路銀を使って少しばかり土産物を買うと、あとは誰からともなく村への道を辿り始めていた。
皆それぞれにおしらから言われた予言が気にかかり、黙り込んでいる。
藤吉は一刻も早くかえでに会い、本当に子が出来たかどうか確かめたかった。
聖羅は一本だけ残しておいた頭の飾り紐をいじりながら、自分が海を渡るというのはどんな気分だろうと想像していた。
疾風はおしらの予言より、「女」という言葉にもやもやし、自分はどうしたいのだろうかと模索している。
そして紫野は。
紫野ははっきり言って、憤慨していた。
(俺が女だって? 女のような人生を送るだって? 俺は寂しがりでもなければ、剣だって上手く使えるのに)
それに、紫野はひとりでいるのを何とも思わない。
もちろん、疾風と聖羅がいてくれるにこしたことはないが、ひとりでも特に寂しいと思ったことは、ない。
ひとりでだって、生きられる。
(当たってない)
紫野はそう考えた。そして先ほどから、ひとり憤慨していた。