第百九十二話 予言(三)
「ど、どうしてわかったんだ?」
今までほんの好奇心が誘う遊び感覚だったのに、急に疾風の胃が重くなった。
そう、この先のおしらの言葉を真剣に聞かざるを得なくなったのだ。
「わかるんだよ、私にはね」
そして言った。
「どう? もっと聞きたい?」
疾風はちょっとためらった。
口をきゅっと結び、じっと自分の手を見たまま不動の姿勢になる。
それを見たおしらは、疾風の手を自分の両手で包み、ポンポンと優しく打った。
「私の預言を聞かなかったからと言って、おまえさんが臆病だということにはならないから安心なさいな。知らなくていいこともある――賢いおまえさんは、そのことをちゃんとわかっているだけなのよ。 ……ねぇ、でもこれだけは言わせてちょうだい。おまえさんは、一人の女を激しく求め、愛するでしょうよ、それこそ命を賭けて」
今、その言葉を聞きながら、疾風はいつだったか井蔵に言い聞かされたことがあるのを思い出していた。
「強くなれ、疾風。強くなって村を守れ。そしていずれおめぇが心に決めた女ができたら、その女を命懸けで守るんだ。守るってのはなぁ、男にしかできねぇことなんだからな……」
その時ふと浮かんだことを、疾風は口にしたのだった。
「女は、守られるために生まれてくるのか?」
井蔵が力強く頷く。
「そうだ」
大木が当然のごとく根を地中に、梢を天に向かって伸ばすように、疾風にも一切の疑念は浮かばなかった。
男は、女を守るために生まれてくる――。
これこそがまったき真実として疾風の心に揺るぎなく根付き、その正義感に満ちた梢を伸ばし始めたからである。
疾風はおしらの予言に十分満足すると、いつもの快活な瞳を上げおしらを見た。
「ありがとう。最高の生き方だ。嬉しいよ」
おしらは言った。
「この乱世、男はみんな自分の欲ばかり。いくさに生き、いくさで死んでいくことを願うやつらばかり。京の町と女たちにとっちゃ、おまえさんたちのような男こそが必要なのにね」
そうして寂しく微笑んだ。