第百九十一話 予言(二)
一瞬、四人は驚いて互いの顔を見たが、藤吉は「それじゃあ……」と顔を紅潮させると、
「俺にせがれは出来ようか?」
と聞いた。
藤吉の手のひらを上下からきゅっと挟むように指で押さえたおしらは、ほほほっと笑い、
「もう奥さんのお腹の中にいるじゃあありませんか」
と朗らかに言った。
「えっ!」
皆頭を寄せて、藤吉の手のひらを覗き込む。
「だが気をおつけ。その子におまえさんの名前の一字をつけてはいけない。でないと、その子は長生きできないかもしれないからね」
呆然としている藤吉の横から、聖羅が勢いよく手を出した。
「おしらさん、俺も。俺の未来も見ておくれ」
おしらはちょっと笑い、「いいわよ」と言って聖羅の手のひらをじっと見た。
「ふぅん……まあ、おまえさん、たいした男になりそうだ。……ねぇ、聖羅。おまえさんは海が好き?」
「えっ、海?」
四人は海を知らない。
「海って、何?」
おしらは「ああ、そう」とひとりごとのようにつぶやくと、背中を伸ばした。
「海ってのはねぇ、この河をずっと下っていった先にある、大きな塩辛い水溜りのことよ。その水溜りは非常に大きくて、大きな船もたくさん浮かんでいる。その船に乗って、人はずっと遠くにも行けるの」
紫野が言った。
「龍神村の湖と、どっちが大きい?」
「そりゃ海の方が大きいわ。――海はね、たくさんの河川が全部集まってるんだからね」
「へぇ……」
四人は感心した。
再びおしらは聖羅の手に目を戻し、
「とにかく、おまえさんは海に縁があるよ。大きくなったら、きっと海を渡って遠くまで行くだろう」
と、予言した。
聖羅が両手をくっつけて手のひらを嬉しそうに眺め、「海かぁ」と何度も言うのを紫野は横から覗き込み、「聖羅、海に行くのか。俺も行けるかなぁ?」と、紫野なりにはしゃいでいる。
その間におしらは、疾風の手を取った。
「さあ、男前さん。今度はおまえさんを見てあげる。――おや、なかなか利発な子だね」
感心したようなおしらの指が、すっと疾風の手のひらの線をなぞる。
とたんにやっと抑えていた爆発しそうな腹の奥の火の玉がまた熱くなりはじめたのは、そのくすぐったいような感じのせいだけではなかったろう。
続けておしらが言った。
「まあまあ、おまえさん、生命力の強い子だ。もうすでに一度、死に掛かってるじゃないか」
この事実を突いた一言に、四人はさらに驚嘆し、顔を見合わせた。