第百九十話 予言(一)
何を思ったか、おしらは四人を小屋に招き入れ、他の女に茶を出すように言った。
疾風は周りを見回した。
さっき、あれほど人が集まっていたとは思えないほど、裸の地面がただ貧相でさみしいものに見える。
よく見れば、今ボロともいえる着物を着て走り回っている女たちも、さっきは紅を塗りたくり着飾って踊っていた女たちである。
目の前のおしらもさっきと同じ赤い唇で優しそうに微笑んでいたが、疾風の耳には最前のおしらの低音がこびりついていたせいで、どこか不安な思いのまま座っているのだった。
他の三人は、顔を赤くしてひたすらおしらに見とれている。
間違いなくおしらは、草路村辺りでは絶対に見かけることの出来ない種類の「おんな」なのであった。
おしらがにっこりしながら言った。
「何だかねぇ、とても目に付いたのさ。このおちびちゃんたちが」
聖羅と紫野は上目遣いになりながら、ともにずずっと茶をすする。おしらは、いきなり高い声で笑った。
「でもやっぱり男だねぇ――私のおっぱいばかり見てただろう?」
それを聞いて、疾風の方が、なぜか赤くなり下を向いた。
(だが誰だって――男なら、そうに違いないんだ)
そんな風な言い訳を、心の中でしながら。
おしらは四人のことを色々と聞いてきて、初めての京見物だと知ると、またほがらかに笑い、初めての京でこの『おしら一座』に巡り合うとは運がいいと冗談めかして言った。
この頃には疾風もすっかり心を許し、不安を感じるどころか間近で見るおしらの匂い立つような女の気にのぼせ上がったか、くらくらしている自分に気がついていた。
何かが爆発しそうである。
聖羅も紫野も、京について初めてといっていいほどはしゃいでいた。
競うようにナガレボシやハナカゲの話をし、そこに藤吉も加わってやがて剣術の話になる。
おしらは聞き上手で、女には何の興味もないようなそんな話を、さも愉快そうに聞いていた。
(実際、京を出て帰り道、疾風は三人に、「おまえたちが、あんなによくしゃべるとは知らなかったぜ」と皮肉を言ったほどである)
いっときは他の女たちも座を交え、彼女たちは聖羅と紫野の長髪に、自分たちが舞台でしていたように綺麗な紐を編み込んでは喜んでいた。
「痛い」
紫野はいつものしかめ面で、女たちにすぐさまそれをやめさせることに成功したが、聖羅は見せられた鏡をのぞき込み、まんざらでもなさそうである。
ともあれ、四人とも、初対面であるおしらという女に完全に魅了され、既知の間柄のように笑い合ったのだった。
それでもおしらは、自分のことは一切話さず、結局最後にこう言った。
「京には魔物が棲むんだよ……気をおつけ」
そうして紫野と聖羅の頭を撫でたが、その目がとても悲しそうだと紫野は思い、(なぜだろう?)と好奇心で胸の中を満たす癖が出た。
だがそんなことは意に介させないというように、おしらは明るく「さあ」と言うと、唐突に藤吉の手を取った。
「どおれ、おまえさんの未来を見てあげようか。何か知りたいことがあるかい?」