第百八十七話 京の夢(二)
「何か京って、殺風景だな。それに人が多すぎる」
疾風がぽつりと言い、三人も頷いた。
「埃っぽいし、色がないや。白と茶と灰色だ。あの松の色だって――」
「この竹林は綺麗だけどな」
藤吉がそう続けてくれ、聖羅は何とか笑った。
「みんな、どこに住んでるんだろう」
紫野が首をかしげると、藤吉が、
「あの塀の中さ。すごい大きな屋敷なんだ。何十人も一緒に住んでる」
と教えてくれた。
紫野は残念そうに爪を噛んだ。
「よく見なかったな」
「そりゃ見えないさ。俺も中を見たのは一度だけだ。あとの人たちは――河原に住んでいるらしい」
「河原?」
「ああ。河原では、結構楽しいこともやっているらしいぞ」
かくして四人は河原にやってきた。
なるほど、この通りにはもっといろんな人々が通る。
自分たちと似たような百姓や旅人や、子供や老人もいる。
掘建て小屋のような家がずらりと並び、そこからはひっきりなしに人が出入りしていた。
少なくとも、さっき通りで見たようなつんけんした人はいない。
河はきらきらと光を散らしながら穏やかに流れ、木々もみずみずしい緑の葉をやさしい風に揺らしていた。
「あっ、あれは何だ?」
少し気持ちが明るくなった聖羅が、河のはたにひらめく何本かの赤や黄の旗を見つけて叫んだ。
「行ってみよう」
近づくにつれ、旗には墨文字で『おしら一座』と書いてあるのがわかり、そのすぐ側の幕で覆った囲いの中から太鼓の音がどんどんと聞こえてきた。
よく見ると、右にも左にも似たような旗が立ち、それぞれの囲いの中では何か「楽しいこと」が行われているようだ。
「さあさあ、『おしら一座』の出し物が始まるよ。お代は見てからで結構。評判のおしら、お見逃しのないように」
すっきりと通る女の声に、人々は吸い込まれるように幕の中に入って行く。
「俺らも行こう、疾風」
はしゃぎ気味の聖羅は、紫野を伴ってすでに走り出していた。
疾風は藤吉と顔を見合わせ、藤吉が「まあせっかくだからな」と言うと、眉をちょっと上げて同意を表明した。