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第百八十四話 稚児化粧(九)

 紫野はいきなり疾風が現れたので驚いたようだった。

 だが逆に、疾風も驚いた。

 紫野は稚児衣装を着こみ、髪を一つに束ねておとなしく部屋に座っていたが、その見なれない(おごそ)かともいえる様子に面食らった。

 白い水干、赤い袴。

 それらは紫野の黒髪と白い顔をよく映している。

 疾風は思った、少なくともこの村で、これ以上の「綺麗な」子供に出会うことはないだろう。

 (だけどそれは、衣装のせいだ――これを着るために、紫野は体を清めたのか)

 ふと、以前の湯浴みする紫野に当惑させられた時のことが浮かび、疾風は顔を火照らせた。

 すぐ、それを打ち消そうと頭を振る前に、紫野が抑揚なく言った。

「まだ墨斎様の返事を聞けてないんだ。今夜が終わったら考える、って」

 もぞもぞと尻を動かし、

「これから、墨斎様の部屋で朝まで過ごす儀式をする。疾風、悪いけど、聖羅と明日また来てくれ」


 とにかく、紫野がまだこうして無事だったことに、疾風は安堵していた。

 すでに先の動揺もおさまりにこりと微笑む余裕を見せ、いたずらっぽく言った。

「儀式? 儀式って、何をするのか知ってるのか?」

「……ただ一緒にいるだけだ。墨斎様と」

 言いながら、鼻に皺を寄せる。そして少し腰を浮かせ、また尻を動かした。

「どうした? 落ち着かないみたいだな」

 すると紫野は、例の小さな油壷を取りだして疾風に見せた。

 それは紫野の白い指に挟まれて、飴色にぬるりと光っていた。

「これを……塗ったから。気持ちが悪い」

「それをどこに塗ったって?」

「ん……」

 あまり大きな声で言えないのか、紫野は疾風を手招きすると耳に口をつけ、ひっそりと何やらつぶやいた。

「尻の穴だと?」

 信じられないというように疾風が聞き返し、紫野は顔を赤くする。

「これが一番肝心だって言われたんだ……稚児になるって、変なことをするんだな」


 もう待っている必要などなかった。

「紫野、それを脱げ!」

 大声にならないよう、だが強い口調で疾風は言った。

「脱ぐんだ!」

 思わぬ疾風の態度に、紫野は目を丸くし、それでも「嫌だ」と言い張った。

「稚児になって、京へ行くんだ」

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