第百八十一話 稚児化粧(六)
「えっ。京へ行くだって」
疾風は今の京の都が、荒れて何の魅力もないことは知っている。
夢を壊すのは可哀想だが、そろそろ二人にも本当のことを知ってもらってもいいと考えた。
(それより三人だと、楽しい旅になるかも知れないぞ)
そういう思惑も出た。
聖羅はお祭り気分でうきうきしている。
「偉いお坊さんが紫野を稚児にして連れていくらしいから、俺たちはその後をついていくんだ」
疾風は、水を汲もうとしていた手を思わず止め、
「稚児? 紫野が稚児になるのか?」
と聞いた。
そういえば、前に一度、紫野が『疾風、稚児って何だ?』と聞いてきたことがあった。あの時、知らないと答えた自分に紫野は、『疾風でも知らないことがあるんだな』と目を丸くしたのだった。
「そうらしい。今その儀式とやらの準備をしてる。体を拭いて、稚児の衣装を着るんだって。今日は一日、儀式があるから外に出られないと言っていたぞ」
「ふーん。そうか」
「な、疾風。それより早く寺へ行こう。置いて行かれたら困る」
疾風はちょっと考えた。
「でも、親父に話していかないと。おまえもお爺とお婆にちゃんと話してこい」
すると、聖羅は頬をふくらまし、
「お爺もお婆も、俺が疾風と一緒ならどこに行っても心配しない。村を出る前にちょっと寄って話すよ。それより親父さんはどうしたのさ」
水を汲み終えて振り返った疾風は、やれやれと肩をすぼめた。
「見張り台に行ってる。俺も今から行くんだ。――おまえも来るか?」
こうして二人はそれぞれ、カギキリとナガレボシに乗って村外れの見張り台の下までやって来た。
歩いてくるのとは違い、馬だとあっという間についてしまう――気持ちは爽快だし、馬というのは何と素晴らしいのだろう!
集まって作業している男たちと挨拶を交わしながら、二人はその間を縫うように進んでいった。
疾風が井蔵の居場所を聞くと、村人の一人が見張り台の上を指差しする。
二人は同時に顔を上げた。
なるほど、ずっと高いところで、井蔵の屈強な背中が見え隠れしている。
「親父」
「おお、疾風か。どうした。上がって来い」
井蔵が、ほとんど完成している新しい見張り台の上から答えた。