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第百七十三話 竜王のお告げ(一)

 それから数日後、思いがけない人物が妙心寺を訪ねてきた。


 木戸を開けた作造は、その村の者ではない男の醜いともいえる風貌に唖然とし、境内を掃除していた恵心も、ウシガエルのような巨体を揺らし歩く見たこともない男に固まったまま、いったい何事かとその後ろ姿を見送った。

 男はこう言ったのだ。

「ここに白い髪の男がいるだろう。会わせろ」

 名を聞いたが、言おうとしない。

 その声は外見と(たが)わず獣がほえるような品性のなさを感じさせ、作造の心臓は縮んだ。

『白い髪の男』とは紛れもなく高香のことであろうが、取り次ぐ間、大人しく待つような礼儀を知っているとも思えぬ。

 作造はひとまず、和尚のところへ連れていこうと判断したのだった。


 のっしのっしと自分の後からついてくる男をちらりと振り返り、すぐ目線を落とす。

 (高香さんに、いったい何の用事じゃろ。妙なことにならねばいいが……)

 そして和尚がこの風変わりな来訪者に目を見張り一瞬言葉をなくした時、彼はまた先ほどの科白(せりふ)を繰り返したのだった。

「ここに白い髪の男がいるだろう。会わせろ」

 僧坊中に響き渡るような大声である。

 

 その時、白い長身が、滑るように部屋から出て三人の前に立った。

「虎太郎か」

 高香は静かに言うと、その切れ長の目で虎太郎を見た。

 (虎太郎だと?! それでは紫野たちを襲ったのは、この男かっ)

 和尚と作造が驚いて虎太郎から身を引いた時、虎太郎は、なんと、その場に土下座し額を地にすりつけたではないか。そして先ほどにもまして、大声を出した。

「俺も――俺も、竜王様のお使いにしてくだされ!」

「……何だって?」

 さすがの高香も面食らったようである。

 和尚に、「二人で話してもよろしいですか?」と言うと、虎太郎を伴って部屋に入っていった。


 二人になっても、虎太郎は高香の前にひれ伏すように顔を伏せ、「どうか俺を竜王様のお使いに……」と言い続けた。

「虎太郎、そなたは何か思い違いをしているのではないか? 私には、そなたの言っていることがわからぬが」

 すると、さっと顔を上げた虎太郎は、

「いいや、俺は見たんだ! あんたが黄金の龍を背負ってるのを。あんたは竜王様のお使いに違いない――な、そうだろ? 俺も竜王様のお使いになりたい、お使いになって、あんたに仕えたい」

「――?!」

「あんたは旅をしてるって聞いたぜ。だから、これから俺も一緒に行く。俺が危険なやつらから守ってやる。な、連れてってくれ。きっと役に立つ」

 汚れた赤銅色(しゃくどういろ)の顔をさらに赤くし、虎太郎は高香に強く言い迫った。

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